第40話 時の旅人(2)


「狂犬」


 渚の提案の方法で狂犬に穴を開けてもらって中に入る。


 中はバリケードが張られており、二階に行けないように階段には椅子や机が壁のように隙間なく組み上げられている。


 エレベーターは使えるようだったが、その前にも机が置かれている。


 エレベーターの前の机は狂犬に食わせ、エレベーターが使えることを確認してから、渚に食糧を創造してもらう。


「それで、避難者は何階にいるんだ?」


「二階から最上階までバラバラにいるみたいです」


 水巴が床に手を当てながら言う。


「手分けして行ったほうがいいな。三手に分かれて食糧を届けに行くか。


 まずは二階から四階まで食料を届けて、四階に集合して次は五階から七階までって感じでいいか?」


「はい、大丈夫です」


 俺がそういうと、幸は頷き。


「それなら、私は隼人と……」


「隼人さんっ!僕と行きましょう!」


 ほぼ同時に渚と真琴の二人が俺に言った。


「え」


「はぁ?」


 真琴と言葉が被ったことで、渚は見るからに不快そうに真琴をみる。



「私の下僕である隼人は私と組むのが当然でしょ?」



 渚の言葉に真琴も眉をひそめて反論する。


「何言ってるのですか?隼人さんは僕と組んだほうがいいんです!隼人さんも傲慢な貴女より、僕のように慎ましい方が一緒にいたいに決まってます!」


「ふふっ。傲慢ですって?……それに、誰が慎ましい?突然喚き出す潔癖ヒステリーよりはましかと思うわよ?」


「へ、へぇ。そうですか?自意識過剰のナルシストほどでもないですよぉ?」


 真琴の言葉で渚の顔は引きつり、笑みがぎこちなくなる。


「ふぅん、いい度胸してるじゃない。なら実力行使しかないみたいね。全知全能である私に貴方が勝てるとでも?」


 苛立つ渚の言葉に真琴の笑顔も固まり、拳を握りしめながら渚を見る。


「それはやってみなければ分かりませんよ。自称、天才さん?」


 二人の間で激しく火花が散り、殺気がぶつかり合い今にも戦い始めそうだ。




「隼人くん……モテてるね……」


「そうみたい。幸は私と組みましょ?」


「うんっ……」


 そんな二人をよそに、既に幸と水巴はペアを組んでいた。


「なるほど。ということは、俺は負けた方と組まされるわけですか」


 時也に至ってはどうでもいいから早くしてくれと言いたそうに俺を見る。


 え、俺?


「そうね。隼人早く決めなさい」


「隼人さん決めてください!」


 二人の熱い視線が注がれ、冷や汗が背中を伝い落ち。


「じゃ、じゃんけんして決めようぜ?」


 そして、公平かつ安全な勝負の末。


 俺と真琴、渚と時也、水巴と幸という組み合わせとなった。


「ま、まぁいいわ。今回は譲ってあげましょう」


「さ、行きましょう。隼人さんっ」



 悔しそうな顔を見せまいと笑顔を作る渚を尻目に、真琴は嬉しそうに見せつけるように俺の腕に抱きついてくる。


 に抱きついてくる。


 俺は話題を逸らすために水巴に聞く。


「水巴。俺の両親がどの階にいるか分かるか?」


「少し待ってください、今調べます」


 水巴はもう一度床に手を当てて読み取っていく。


「三階ですね」


 水巴は目を開けてそう言う。


「んじゃあ、俺らは三階に行くとするか」


「はいっ」


 食糧の入った段ボール箱を一箱ずつ抱え、俺と真琴はエスカレーターに乗り込んで三階に上がる。



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