第9話 創造世界(3)
「な……!?」
弾丸のように校舎に突っ込んできた少女は、キラキラと輝くガラスの破片の中をくぐり抜け、勢いを殺し音もなく見事に着地を決める。
ここは三階なのになぜ外から窓を割って入ってきたのかとか、どうやって三階まで上がったのかとか、そんな事を考えるよりも先に、目の前の少女のその美しさに目線は釘付けになった。
日本人離れした金色の艶やかな髪に、洗練された造形品のように整った容姿。そして、薄茶色の吊り目の瞳。
髪は長い髪の一部を上の方で二つ括りにしたハーフアップという髪型にし、その髪は動きに合わせて滑らかに揺れている。
身長はそれ程高くもなく、どちらかといえば小柄だ。少女が着ている制服から、学生であることは予測できるが、見たことない制服だ。私立高校の制服だろうか。
「ふぅ。よし、侵入成功っと。
流石私ね、完璧な着地だったわ」
少女は肩や服についたガラスの破片を服の袖で払いながら周囲を二、三度キョロキョロと見回しやっと俺を視界に捉える。
その瞳はこの地獄のような世界にいながら、自信と希望に満ちていた。
「あ、いたいた。って、うわ、死にそうになってるじゃない。なんとか間に合ってよかったわ。ねぇ貴方、『ドリーマー』でしょ?」
「え、あ、はい?」
少女のあまりの美しい容姿に一瞬見惚れ、少女の言葉がよく聞き取れなかった。
聞き返すと、少女は呆れた様子でため息をつくがもう一度同じ質問をしてくれる。
「貴方が『ドリーマー』かどうか私は聞いているの」
聞き慣れない単語に俺は首を傾げて疑問符を頭に浮かべる。
「『ドリーマー』?って何のことだ?」
俺がそう聞き返すと少女は意外そうに俺を見つめる。そして、何かに納得したように何度か頷く。
「あれ、自覚なかったの?あー。ってことは、これを最後まで読まなかったのね」
少女はポケットから一枚の紙と封筒を指で摘み上げて取り出す。
その手紙には見覚えがある。
宛名も送り主の名前も伝えるべき内容も書いてない無地の手紙。確かその手紙は地震が発生する前に、俺がラブレターだと思って開けた手紙だ。結局その手紙は狂犬の名前しか書いていなかった。
「あ、その封筒と手紙って……」
「そ、これはギフト名が書かれてあった紙よ。どういう理屈かは分からないけれど、これ、一回文字が消えたでしょ?」
「そうだ。それで、夢を見た」
「そう、でもその夢から覚めるとまた別の文字が浮かび上がるの。その様子だと、目が覚めた後は手紙を見なかったようね」
「あぁ……」
確かに、夢を見たあの後目が覚めたら保健室にいて、千花と話し込んでいたから手紙の存在なんて忘れていて気づかなかった。
というより、あの手紙はどこへ行ったのだろうか。目が覚めた時には手に持っていなかったから、教室に置いてきてしまったと思うのだが。俺のクラスは校舎ごと崩壊したため、もし教室にあったのなら、見つけ出すことは困難だろう。
「んで、『ドリーマー』って?」
「はぁ、仕方ないわね。一度だけ、特別に説明してあげるわ。それくらいは知っておいてもらわないと話をしても埒があかないようだし。
いい?『ドリーマー』ってのは……」
「グギャァァァァァァァァ!!」
少女が言い終わるよりも先に、化け物が校舎の壁を突き破って入ってきた。
「この声っ!化け物……!?」
なんでこの場所がバレたんだ!?それも、こんないきなり。さっきの窓が割れた音で誘き寄せてしまったのか。
「あ、忘れてたわ。
こいつらの存在を」
少女は化け物を見て物怖じせず、さらりと言う。
教室に筆箱を置き忘れたみたいな気軽さで言っているが、それはそんな簡単なものじゃない。
「は?お前が連れてきたのか!?」
爆弾を引き連れてきたようなものだ。何考えているんだ、この女は。
「お前って……この私に向かって失礼極まりないわね。
ここに来る前にちょっと絡まれたから反撃したら追いかけてきたのよ。それでさっきもちょっと吹き飛ばされちゃったわ。
貴方のせいで忘れていたけど。それに、こんな三下連中を相手にしてたらキリがないわよ」
少女は俺の口ぶりが気に入らなかったのか、不満を漏らしながら化け物を興味なさげに一瞥する。
というか、普通自分を吹き飛ばした相手の存在を忘れるか!?
普通は忘れないだろ。
「この化け物共がどんなにヤバイか知らないのか!!おい、逃げるぞ!!」
俺がそう少女に向かって叫ぶが、少女はそれを無視して動こうとしない。
「『化け物』……貴方はそう呼んでいるのね。
あながち間違いではないわ。見た目もかなりキモイものね。けど、覚えておきなさい。
こいつらの名前は『餓鬼』。そして、私達が殺すべき敵よ。少なくとも私達が殺戮される相手じゃあない」
口元に笑みを浮かべながら、少女は言う。
強がって見栄を張っているのか、それとも確固とした根拠があるからそこまで言い切れるのかは分からないが、少女の曇りのない瞳が俺の口をつぐませる。
この少女は、一体何者なんだ。
そんな俺の内心を読んだように、少女は答える。
「よく聞きなさい。
私は
与えられたギフトは『創造世界』」
渚と名乗った少女が右の腕を振り上げると、その腕の先の空からどこからともなく一本の槍が現れ。
「グキッ?」
化け物の首を貫いた。
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