和解 (xi)

 環は、霊媒師を称する天之霊宮崇神・著『孔明もビックリ!人は「3秒で」ちる』の5章の2『究極! 肉を斬らせて骨を断つ!! 確実にハメる禁断の秘技!!!』を有効活用したにすぎない。

 その項目によれば「対象者をコロっととし、意のままに操縦する方法」とのこと。著者も著者だが、環も恐ろしい子である。

 ちなみに、霊能者的な人物がそのようなブラック系心理学の本を書くのは多分に問題があるように思われるが、同氏お得意の口八丁テクニックで煙に巻いているので今のところ大丈夫のようだ。


「武器や魔法については、こちらで少し把握した結果をもとに割り振りさせてもらった。不満があるかもしれないし、急場しのぎの配分だからベストじゃないかもしれない。でも、巧遅は拙速にしかず――あ、『遅いけど上出来』よりも『不出来だけど速い』のほうがいい、って意味ね、それだと思って」


 とうとうと環は指示を飛ばす。もうすでにスイッチが入っていた。考える隙を相手に与えず、格言の威を借り、心情に配慮しつつ、こちらの不利と思えるところはすなおに認め、しかし、ベストではないにしろベターであり合理的な案であるとのアピールをしっかりし、有無を言わさず決定事項として飲ませる――


 冷静な状態の少し知恵のまわる大人であれば通用しないかもしれない。

 が、追い込まれた状態の高校生、かつ先ほど装備品をめぐって醜態をさらしたばかりとあっては、唯々諾々と従わない理由がなかった。

 そこまでの打算があったか環自身にもわからない。熟考することなくナチュラルにその誘引をやってのけたのだとしたら問題であろう。やはり月影女史も白目むき青ざめる逸材なのか。恐ろしい子!


 それはともかく、7人の生徒は、リーダーに返り咲いたクラス委員の口車に乗せられ、もとい、理にかなった立案に賛同し、彼女の示したリストに沿い、銘々の武具を身にまとった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る