SyainingsRedys (ii) ――― ( b + a )( b - a ) = A
「あのー、『Ars Creen Project』の『Ars』って、正しくは『Earth』ではないでしょうか……?」
いつもの代官山のカフェで催されていた
一瞬、S.Rさんたちの雰囲気がふっと変わるのを感じ取った。それまでにぎやかに談笑していた4人のオトナ女子から、波が引くように笑みが失せた。
私が、
本当は「Creen」も「Clean」ではないかと伝えたかったが、「Ars」に触れた時点でかなり気まずいムードになっていたのでとても言えなかった。
あのときの場の空気がどれだけ不穏当だったかと言うと――
「んーと……、そういうことを言ったのは三郎丸さんが初めてなんだけど? 誰か気づいてた?」
「ううん」「全然」「ちっとも」
「たとえ気づいてても普通、空気を読んで黙ってるものよね。もう19年使ってるわけだし」
「普通はねー」「ねー」「ねー」
「あの……ええっと……」
「言っとくけど、A.C.Pの名前、三郎丸さんの生まれる前からあるからね? この名前のほうがあなたより先輩だからね?」
「……………」
「
「いえっ……そんなつもりは全然……」
「この年ごろの子はミョーになにか勘違いをしちゃったりするからねえ」「中学生ぐらいのときはねえ。つい背伸びしたくなっちゃったんだよね?」
「そういう気は……私……」
「ささいなことを鬼の首を取ったように騒ぎたてたがるもなのよ」
「まだ子供だからはしゃぎたくなる気持ちはわかるけど……ねえ?」「ちょっと……ねえ」「ねえ」
「あの……その……」
「環ちゃんさー、もちょっと空気読めるようになったほうがいいよ?」
「そんなだからいじめ受けたりするっての、わかんない?」
「あの……えっと……」
「ここ日本だからね? だいじだよ? 空気読むって」
「今のうちにちゃんと覚えとかないと苦労するのは環ちゃん自身なんだからね」
「あ、はい……」
「口うるさいババアが、って男みたいにしょうもないこと考えてるでしょ、今」
「い、いえ……全然ないです……そんなこと……」
「私たち、環ちゃんのためを思って言ってあげてるんだからね?」
「そうよ。言いたくないことでも、環ちゃんが将来困らないように、心を鬼にして注意してあげてるんだから」
「はい……」
「叱るほうだって嫌な気分なのよ。それでも注意してもらえるってすごくありがたいことってわかってる?」
「はい……」
「こんなに思ってくれるオトナの女性に囲まれて、あなた今、代官山で一番幸せな女の子なのよ」
「……はい……」
「じゃあなんで泣いてるの?」
「そうそう。なにか被害者みたいな顔して」
「あの……あの……」
「もー、環ちゃんてばやめてよお。これじゃまるでアタシたちが悪者みたいじゃない。ねえ?」
「ほんとよー」「やだやだ」「最近のコはもーダメね。すぐ泣いちゃう」
「うっ、う……すみ……ません……………私……」
「言っとくけどアタシらの時代、こんなものじゃなかったからね?」
「怖いよー。普通に手や足、出てたんだから」「それを考えたら今の子なんてすごい恵まれてる」「なんでもかんでもケータイで済んじゃうしね」「ほんと便利になったもんよねー」
「アタシの時代なんてまだぎりぎり紙のラブレター残ってたから」
「私も」「あたしも」「あったあった」
「それに引き換え、今のコなんか告白から別れ話までぜーんぶLINEだものね」
「おねーさんたちには理解できない世界」「ついこの間までケータイなんてなかったのにねー」「隔世の感」
「便利になりすぎてがまんすることを知らない。だから調子に乗っちゃう」
「そうそう」「ほんとほんと」「わかる」
「……………」
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