恋環 (xlvii)

 例に挙げた3組のカップルでさえ、男子の好みは違う。

 派手で積極的な船井さん、従順・受け身の内巾さん、マイペースな一方で、オタク趣味にさえもあわせる懐の深さを持つ大偶さん(私のような常人には絶対ムリだ)。見るからにモテそうな女子だけが男子とつきあえるわけではない。

 私のような地味系女子や、小分こわけさんのような理系女子リケジョくすのきさんのような少々変わった感じの女子にもチャンスはある。

 なんだったら難波さんにでさえ――いや、さすがにそれはないか。人間とロボットの恋愛じゃまるでSFだ。まあ、彼女も見た目だけは無駄に恵まれているが、本当に無駄でしかない(人間の私に半分ぐらいよこせといいたい)。


 とにかく、人類であるかぎり、すべての女性に希望はあるのだと思いたい。それこそLGBT漫画購入系女子であってもだ。ぎりぎり人であるかぎりは、業の深い彼女らでさえも訪れる春はあるかもしれない。ことわざでも、たで食う虫も好き好き、割れ鍋にとじぶた、捨てる神あれば拾う神ありというではないか。(まあしかし、同性という点でだいぶお情けが入っているのは否めない。これが男性ならば、オタクの時点で人間をやめたも同然のあつかいを受けて当然である、と冷徹に切り捨てる)


 ただ。問題は、午角くんの恋愛選択肢に私が含まれるかどうかだ。

 日本中の規模で見れば、何千万人もいる男性のなかで私が選択肢に入る人はひとりやふたりではないだろう。1時間前に生まれた新生児や、そろそろ棺桶の注文をしておこうかというおじいさんなど、私のがわでお断りの男性(無論、オタク男性は、赤ちゃん・おじいちゃん並にまっさきに含まれる)を除いても、カップル成立となりうる男の人は相当数いるに違いない。

 だが、そこに午角くんは含まれるのか。恋愛は論理積なのだ。いくら私が真でも、午角くんが偽なら、私たちがカップルとなりうるかの命題は偽だ。


 私は午角くんのタイプなのだろうか。

 正直、私は見た目もかなり地味だ。ファッションセンスを求められたらちょっとつらい。今までわりと無関心できたので、これから勉強するとなると少し時間がかかると思う。


 ただ、逆をいえば、時間さえかければどうにかなる。

 遅かれ早かれ、5年後、10年後のオトナ環わたしは、普通にメイクもして、お母さんが選んだやつではない自分なりのコーディネートに身を包み、仕事に恋に趣味に類人猿退治せいそうかつどうにと充実した日々をすごしていることだろう。

 もう少し先だと思っていた恋の予定が、思いがけず、ずいぶん早く訪れた(一般的にはそれでも遅めかもしれない。が、スマホが唯一の話相手な誰かのように、生涯訪れないケースもあることを考えればずっとましだ)。

 女子である以上、おしゃれはいずれ避けて通れない道なのだし、自分磨きを怠りLGBT漫画系に落ちるつもりはない。女子力はアップできる。

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