恋環 (xxxi)

 クラスの連中は思わぬ発見に、にわかに軽く沸いているようだ。

 RPGゲームのキャラへいだきがちな、食事やトイレはどうしているんだとの疑問に、明文化されていない特殊な作用をもって『プリムズゲーム』は答えを示した。

 午角力も、いわれてみれば、新しいシューズにまだ慣れないせいか、やや靴ずれ気味だった痛みが、今は消えていることに気づく。このまともに歩くこともままならないステータス異常もついでに消してくれるとありがたいのだが。


 彼を遠巻きにしている仲間たちは別の発見もしていた。人間だけでなく、携帯端末もエネルギー切れを起こさないという事実だ。

 食事についての疑問から、電子機器のバッテリー切れに心配がおよぶのは自然な流れで、「ゲーム」に関する情報を得られなくなるのではとの不安が起こった。

 が、動画にゲームにと端末を使い倒してバッテリーの劣化が著しい生徒たちが、普段、見る間に減っていく残量が1%も失われないことに目ざとく気づく。

 省電力設定を解除しどれだけ画面を点灯させようと減らないバッテリーに、驚き歓喜するクラスメイトに、冷静な者はあきれた。「ゲーム」に巻き込まれた大幅なマイナスのなかで、こんなささやかなプラス効果を得られてなにがうれしいのかと。おそらく恩恵を受けられるのは「ゲーム」の間だけのことで、もとの世界に戻れば消失すると思われるのに。そもそも、生きて無事に帰れるかどうかの状況に立たされているというのに。


 そういう意味では、力は、一八とともに、ほかの生徒たちよりも一歩、死の崖淵に近い立ち位置にいる。よりいえば、自身が最も近い。

 音が聞こえない、会話で意思伝達ができない、魔法などの技が使えない(実は剣術等の技も、技名の発声が発動条件となっていることを知った)、それら以上に不利な、文字どおりの足かせを力は負っている。動きの制限に加えて2/3ほどにまでダメージも受けたままだ。

 そんな力にどう接していいのかわからない、また、やり場のない感情に鬱屈した面持ちが遠ざけるのか、あるいは一八の起こした騒ぎの二の舞を嫌ってか、誰も話しかけようとしてこないのも愉快ではない。

 周囲の席から聞こえてくる、「ゲーム」に対する意見と不満の交換。いつもなら加わっているはずの輪から切り離されている疎外感。今の厳しいステータスで不安を抱えるなか、かやの外に置かれるのはこたえた。次に戦い赴いたとき、まっさきにトカゲのしっぽにされるのではとの疑心暗鬼におちいる。


 今はクラス委員、三郎丸環だけが頼りに思えた。先ほどのなにげないLINEのやりとりが、心の支えになっている気がした。

 名采配をその脳細胞でふつふつと熟成させていることを願って、力は、にらむようにくうを見やる彼女の双眸に、希望を寄せる。

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