恋環 (ii) ――― ◯
惹かれる――環は、自分の浮かべた言葉にどきっとした。
いったい自分はなにをいっているのだろう、と。
彼は、午角力は、単なるクラスメイトではないか。ほかの人たちよりは多少突っ込んだ話をし、秘密を共有して、評価をしてもらい、フレンドリーなやりとりも少々交わせた、それだけだ。
私と彼は、今年同じクラスになっただけで、今までクラス委員としての事務的な用件でしかほとんど話したことのない、とりたてて親しくもない間がらだ。
彼について詳しいことも知らない。クラス内で耳に入ってくる会話、学校行事などでの活躍ぶりによれば、校内で有数の俊足で、所属する陸上部ではいくつか記録を塗り替えているとかいないとか。
勉強は苦手なほうらしく、理系よりは文系。彼女がいるという話は聞かない――ってなにをいってるの。
午角くんにつきあっている相手がいるとかいないとか、私にはまったく、いっさい、なんの関係もないことだ。そんな相手がいたら、あるいはいなかったらなんだというのだ。なにかそれに意味があるのか。あるわけがない。
私は、何組の誰それと何年生の誰々がつきあっているだのいないだの、そんな噂話に花を咲かせるタイプではない。他人の恋愛話に首を突っ込む趣味はない。
これではまるで私が、彼になにか妙な気でも起こしているかのようではないか。ありえない。まるでない。いっさい、まったく、ミリすらもない。
繰り返すが、私は午角くんとは、同じD組にいる以上の接点は持っていない。今日以外でまともに会話したのは数えるほどだ。今日を除いて彼を意識したことなどこれまで一度だってな――意識した?
またしても環は、自身の言葉に驚く。仰天したとさえいっていい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます