弁解 (vii)

 環はふと、LINEの画面が自分のメッセージで埋めつくされていることに気づく。

 クラスメイトに危険を強いることをいとわないとか、将棋やチェスの駒かなにかのようにもてあそんでいるとか、そういった悪意があってのことではないと訴え、力の理解を得ようと懸命になるあまり、けっこうな長文になってしまった。

 少しスクロールして、送信した内容を振り返ってみる。延々と自分の吹き出しが続いている。なんというか、ちょっとストーカーっぽくて、我ながら引く。

 だが、これで真意は伝えられたと思う。


 そういえば、先ほどから力の返信がない。長文に引いているのだろうか。既読がついているので読んではいるようだが。


 ちらと彼の席を見てみる。端末を操作している。返信を書いているのか。目を向けているとメッセージの通知音が嗚った。『なるほど、そんな理由があったのか』といった、理解ある反応を期待して画面を見る。


『三郎丸さんって


 血の気が少し、引いた。


『なんで?』


 寸言が環の血を軽く逆流させる。


 見るのが怖いのに無意識に力の席へ目を向ける。

 そこにあるのは――フラットな表情。

 感情の読み解きにくい無表情がこちらを見ていた。思わず目をそらす。

 先ほどと違って、今度は環のがわだけだった。

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