ファクトリアル (vii)

 ますます使えない。

 しかし、それらさえかすむ、重大なデメリットがさらにあった。今、力の身に生じている不具合の元凶だ。


「『ファクトリアル』は強力な効果を持つ一方、反動がある。さっきの発動で疾走如意剣ランニングソードの長さが61%減少、『歩行困難』のステータス異常が付加されたとログにある」


 剣が大幅に短くなったのと、ミナスから逃げない理由はそれだったのか。

 一八を助けるために、力は意図せず自身が危機的状況に陥ってしまった。申しわけない気持ちで胸が詰まる。「ギューカク……!」


「は……早くっ、魔蹴球ボールの強化をっ……。もうあんま……もたねえっ……!」


 力は脂汗をにじませ懸命に応戦する。その手が握る剣はもはやあの冗談じみた長さではない。しごく妥当な尺にまでちびている。いくらも時間は残されていない。蹴り始めたばかりの魔蹴球はまだ紺色に染まるかどうかの低水準。今からドリブルをしても絶対に間にあわない。


 とりあえずターゲットを俺に――だめだ、ボールの強化もシュートも、できるのは俺だけ――139cm――でも、助けないとギューカクが――? ――137cm――走れないあいつは囮も球の強化も無理。どっちにしろ俺らふたりともやられる――131cm――ギューカクが敵を抑えている間に少しでも遠くに離れて、強化して――127cm――あいつを殺ったあとに向かってきたところを鍛えた球で――


 ? ? ――113cm――


 だってそうしないと俺までやられる――脳内であれだけ午角力ひとのことを裏切り者あつかいしたくせに?――103cm――死にかけたところを助けてくれた奴を?――101cm――今まさに目の前で殺されそうになってる人間を?――97cm


「うおおおおおっ!」

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