逃走 (xiii)
「さて、と」
一八は足もとの
「ちょ、ちょっと、宮丘くん? なにをしてるの?」
無心でボールを転がすクラスメイトに、環はとまどい呼びかける。
一八が少し歩を進めると、白黒の球が青みを帯びはじめた。
「見りゃわかんだろ。ドリブルだよ」クラス委員の問いへこともなげに答える。
「作戦を忘れたの? ドリブルは時間がかかりすぎるからリフティングを試そうって」
「言ってたな」
「じゃあどうしてドリブルを?」
「俺がやりたいからだよ」
「やりたいから、って……。午角くんはもうだいぶ走り続けてるのよ。早くミナスを倒さないともたない」
「あいつも伊達に『
ちなみに、今年は力以外にも歴代3番目、5番目、13番目がいて、すでに花の37年度と呼ばれているという状態であり、力の活躍は埋没気味だった。
「そんな悠長なことを言ってて、もし、午角くんが力つきたらどうするのっ」
「だから急いでやってんじゃねーか。ほら、もうわりかし真っ青になってきた」
「宮丘くん!」
声を荒らげる環を「やめとけ、副委員長」と男子の声が制した。征従だ。
丹下くん、と非難の矛先を彼にも向けようとする環に言う。「カズ、死ぬほどへたなんだよ、リフティング」
彼女はぽかんと口をひらいた。一瞬、意味がわからず、言葉がぱっと出てこない。
「だって宮丘くん、部でエース級なんじゃないの? この前の他校との試合でハットトリックしたって……」
「サッカーの得意な奴が全員、リフティングもうまいとは限らないよ」天祀が言った。
「プロのなかにも、へただったりほとんどできない選手っているらしいぜ」まあ、カズ本人談だけど、と真砂鉉。
いくらか狼狽気味に環がただす。「どうしてさっきそれを言わなかったの」
「カズがリフティングできないの、わりと有名かなって」「ギューカクがやる前提で話してんだとばかり」「いやしかし、あいつはあいつですげーへただったな、あの大はずししたシュート」
小学生のスポーツ少年団のとき、キーパーとベンチだけだったらしいぜ、などと話す3人組に、環は軽いめまいをおぼえた。
意思の伝達・疎通の不足。おかげで作戦に致命的な支障が生じている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます