逃走 (v)

 それから30分ほどが経過した。

 幸い、力が一八の怒りに触れ怪物の生贄にされたりすることもなく、男子高校生2人は協力しあって奇妙な作戦を遂行させた。

 時間がたてば徐々に体力を消耗する。力と一八は、プレイヤーの追加や交代はどうやってもできないのかと、環たちに尋ねた。


「ヘルプを確認してるけど、やっぱりどちらもできないみたい。ルールの最初のほうにそう書いてある」

「ルールつっても、前のバトルんとき、枡田のさじ加減でわりとどうにでもなってたじゃん。実はゆるゆるなんじゃねーのかよ」


 力と交代したばかりで肩で息をする一八が、不平混じりに指摘する。彼を中心に力とミナスが周回していた。なにか危険があればすぐ助けに入れるようにとのポジションどりだ。


「枡田先生はもういない……。この『ゲーム』の枠組みのなかでクリアしていくしかない」


 環はやや悲しげだ。『プリムズゲーム』に参加させられたことに対するものだと思いたかった。が、どうも担任教師の死に心を痛めているふしがある。

 死者を鞭打ちたくないのかもしれないが、このふざけた「ゲーム」を作り、自分たちを放り込んだ張本人だ。死のうが地獄に落ちようが同情の余地はない、と一八はばっさり断罪する。


 百歩譲って、いや、百万歩譲って、ゲームみたいな世界を体験できる貴重な機会にはなった、と無理やりポジティブにとらえても、やはり擁護はできない。どうせ命を張るなら、せめてもっとかっこいい勇者やナイトをやらせてくれと言いたかった。

 すでに3mほどにまで成長しているバカみたいに長い剣を抱えて、交代しながら、巨大な牛から逃げまわるというシュールな罰ゲーム。これを命がけでやりたい人間がいたら見てみたい。


 まあ、このシチュエーションに関しては、目の前で「くそっ、重てえなこれ。佐々木小次郎かよ」とよくわからないことを言いながら遁走している午角力クラスメイトのせいなのだが。なんか文句をたれてるけど、剣をピノキオの鼻みたいに伸ばさないといけなくなった原因はおまえだかんな、ギューカク?

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