剣球 (xix)

 指示した作業もそこそこに多くの生徒が窓にかじりついている。環も寄ると、グラウンドを走る力と一八がの姿が見えた。

 疾走如意剣ランニングソードを伸長させるためではない。モンスターが動きだしていた。


 巨体をゆらせてふたりに迫る。遠目かつ手を振っていて見えにくいが、力の手もとの剣は若干伸びているだろうか。一八は魔蹴球サッカーボールを手に持っている。


「宮丘くん、ドリブルしながら走れない? そうすれば威力がアップする」

「サブロー、おまえバカなのか!?」


 スピーカーモードで、駆ける足音といっしょにあせり声が返った。嫌いなあだ名を添えての罵倒に少しむっとしたが、「そんなことしてたら即、追いつかれるわっ」と言われ納得した。


 力と一八がいっしょに逃げても、強化されるのは力だけだ。力の剣が伸びても近接戦には変わりがない。巨大なミナスとわたりあうのは危険だ。距離をたもてる一八が攻撃したほうがいい。

 環はその旨をふたりに説明する。


「二手にわかれて午角くんが敵を引きつける。その間に宮丘くんは、敵と距離をとりつつドリブルで威力を高める。じゅうぶん高まったら、午角くんが誘導して宮丘くんが攻撃」

「囮になってカズのお膳だてをしろってか?」


 そりゃおいしい役どころだな、と力は不満げに息せききった。


「今言ったとおり、できるかぎり安全を確保する作戦よ。それともあえて危険をおかしたいの?」


 力は黙り込んだあと、ぶっきらぼうに、わーったよ、と受け入れた。一八だと性格的に拒否しかねないので、逆でなくてよかったと環は思った。

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