犠牲者 (xxxi)
「先生っ……先生!」
親友の悲痛な声で征従は我にかえった。横たわる教師のかたわら天祀が呼びかけていた。
よろけそうになる足を踏んばって、同様の状態にある真砂鉉とともに向かった。
スーツも体もぼろぼろになった枡田はむごたらしい姿だった。全身が血と砂にまみれ正視に耐えない。天祀はわななく声で担任に声をかけ続けた。
「油断……した……」
虫の息の枡田は、うつろな目でかすれ声をもらした。「救急車っ、救急車だ!」と叫び携帯端末を取り出す征従を、わずかに手を上げて制した。
「無駄……だよ……………ここはちょっと……違う空……間なんだ……」
「違う空間ってなんなんすかっ」
真砂鉉が困惑した顔で問う横で、枡田の制止を無視して征従が119番通報をしていた。
「――えと、救急です! アサ高……旭原高校のグラウンドです。担任の先生がモンスターにやられて……あ、じゃなくて、体じゅうを打ってすごい血が――」
「来ら……れないよ……………誰も……」救急の窓口とやりとりする征従に、弱々しい声で否定する。「誰も……来られないし……誰も……出られない……」
「どういうことっすか。モンスターが出たり消えたり、剣から技出たり魔法使えたり、ワープしたり。これってなんなんすかっ?」
抗議を交えた質問には答えず、枡田は消え入りそうな口調で一方的にしゃべった。
「『プリムズゲーム』は……………んぃ……から……97までの……番号……………ステージが……ある……」
「すべて……クリア……するまで……………元の……空間……には帰れ……ない……」
「こんな……はずじゃ……なかっ……た……………失敗した……」
「ア……プリが……助けに……なる……………しっかり……目を通し……て……」
「みんなには……申し……わけ……ない……………ことを……………し……」
それが枡田の最期の言葉だったと、このあとに教室に戻った征従は語る。
まもなく、微弱だった担任教師の呼吸音が、とだえた。
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