犠牲者 (vii)

 人気ゲーム『ハンティング・オブ・ザ・モンスターズ』のプレイヤーキャラクターを気どって、3人の高校生は前進を始める。

 タウがびくりと反応し、体をこわばらせる様子をみせた。


「なんかあいつ、ビビってね?」「馬ってすげー臆病っていうしな」「油断すんな」「おまえこそ転んで味方刺したりすんなよ」「しねーよ、バカ」「あっ、逃げた」


 真砂鉉が大声を出した。タウが駆け、3人から離れていく。


「追えっ」征従が言いながら先陣をきって走りだす。真砂鉉と天祀があとに続いた。



 5分後――

 男子たちは額に汗をにじませ、ぜえぜえと息をきらせていた。征従は剣を杖代わりにつき、真砂鉉はしゃがみ込み、天祀にいたっては足を投げだし地面にへたっていた。


「はあはあ……人間が馬に追いつくのって、ちょっと……無理くね?」「ちょっと、つーか……明らか不可能」「まさに無理ゲー……」


 グラウンドの反対側でタウがぶるぶると耳を振るった。すでに高校生3人組を見てもいない。ここが牧草地だったら草を食んでいそうなほど落ち着いている。

 頭の上のほうからはクラスメイトのわあわあ言う声が聞こえた。征従が毒づく。「てめーら、のんきに観戦してねーで問題解けや」

「もしかして、もう解いてて『不可侵』状態が解除されてるとか」ふと思いついて言った真砂鉉の意見を、天祀が否定する。「だったらさっきみたいにガッシャーンってなってるだろ」「どのみち追いつけないんじゃ倒せねーし」征従がだめ押しした。


「これ、牛角ギューカクが適任なんじゃね? 名前、『うま』だし、あいつ、死ぬほど足はえーし」


 真砂鉉が別の思いつきを口にする。

 「牛角」はクラスメイトの男子、午角うまかどりきのあだ名だ。クラスで助引駆恒と双璧をなす俊足で、校内でも屈指の記録保持者だが、しょせんは人間の足。真砂鉉も、彼がタウに迫れるとは本気で思っていなかった。

 征従は、枡田に文句言おうぜ、と担任のほうに向かう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る