チュートリアル (xvii)

「プレイヤーには武器だけでなく、少しだけ強化された身体能力が与えられる」


 こんなふうにっ、と枡田は語尾を強め跳躍した。生徒は驚きの声をあげる。

 1メートルほどの高さまで飛び上がり、またたく間に獣との間あいをつめた枡田は、木の枝でも振るうように軽々と振りかぶった剣で、


 ザッ。


 したたかなひと太刀を浴びせた。

 薄いグレーの大柄な体躯が、蹴り上げられたボールのごとき勢いで吹っ飛ぶ。わっ、と男子に混じって女子の驚嘆も沸く。獣の図体の重々しい音がスピーカーから聞こえた。


「ウサギ」は、すぐさま体勢をたてなおし、その姿に似つかわしくない大きな一角をまっすぐに向け、枡田に突進した。

 危ない、やられる、と教室内は騒ぎになる。枡田は動揺を見せない。寸前まで迫った天然の槍をひらりと交わし、その背にもうひと太刀、叩き込む。

 牛のような体が横倒しに転げ、土煙が上がる。5階の教室からでも、眉ひとつ動かさず、伏したモンスターに剣を向けるその無表情が見てとれるかのようだった。


「すっげえ」「やるじゃん、マスティー」「先生、ヤバくない?」「ヤバいヤバい。超ヤバい」


 枡田のあざやかなたちふるまいに、先ほどまで反感一色だった生徒は手のひらを返して沸いた。彼らは、自身が異常な状況下におかれていることも忘れ観戦にのめり込んだ。


 2度のクリーンヒットで力尽きたかに見えた獣が、おもむろに起きあがった。

「うそっ。まだ倒してないの?」普段はほんわかとしている磯垣いそがき空架くうかが、口もとを覆い声高に言った。

 なにごともなかったかのように再び戦闘態勢をとる一角のウサギに「マジかよ」「今、めちゃ斬られたのに全然きいての?」と皆、驚きを通り越しそうなあきれ顔だ。


 枡田が携帯端末を顔に寄せるのが見えた。スピーカーから声が聞こえる。


「状況がわかりやすいように、みんなの端末にアプリをインストールしておいた。今、起動したのでそれで確認してみてほしい」


 唐突な話に生徒は一様に「はあ?」「えっ?」といぶかしげな顔になる。

 が、まもなく、校庭の様子を撮影していた生徒が悲鳴をあげた。


「うわっ」「え、なにこれ!」

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