弁解 (xli)
『さっき言った新しいやり方についてだけど』
力はSNSの画面をたぐり、環と作戦会議を進めようとした。が、彼女からの応答が遅い。というか、ない。
先ほどのやりとりから、レスポンスのテンポはよさそうなほうだと思ったが、とクラス委員を注視する。
教卓のややななめ後ろに立つ彼女は、うつむき加減に宙空を見つめていた。なにか考えをめぐらせているのだろうか。メッセージを送って尋ねてみる。
『おーい三郎丸さん なんか考え中?』無反応。
『みんなで相談しね?』反応なし。
『なんか閃きそうなのかな 今邪魔しない方が良さげ?』やはり反応はない。
クラス委員は銅像のように固まり微動だにしない。半眼気味にひらいた目は、どこでもない場所、自身の内がわの世界を見すえているのだろうか。
普段の影の薄さとは対照的に、ここ一番でリーダーシップを発揮しクラスを導く彼女だ。もしかしたら、なにか名案が浮かびかけているのかもしれない。
『まとまったら声かけて』
思考の埒外に置かれている端末に伝言を残し、いったん話しあいを中断する。優秀な策士が思索にふける際に、凡百にできる最良の助力は「なにもしないこと」だ。よけいな口出しは、貴重な脳のリソースを浪費こそすれ、貢献は難しい。
よくも悪くも人とはちょっと違うあのクラス委員が、いったいどんな秘策・奇策を練りあげているか。
眼鏡のなかで深く集中するまなこへ、楽しみだぜ、と無言で声がけし、力はスワイプで画面を閉じた。
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