[第26話]後輩と原因

 くそぉ、やっぱり今日は休みを取れば良かった。未来みくるのことが心配で仕事がやれたもんじゃない。

 今は昼休みだが、飯を食う気にもなれなかった。未来が苦しんでいるかも知れないのに俺がこのデスクの前に立っていて良いのだろうか、という罪悪感的な何かで押しつぶされそうであった。

 しかし未来自身は「病気にはならない」と確かに言っていたのだ。ということはこの前の充電のようなスマホ自体の問題なのだ、多分。

 それを全く知らずに焦って行動したら、大惨事になりかねない。寝込んでいるが、病気ではない。多分、スマホ自体の問題。


「それは、なんなんだろ」


 周りに聞こえないように、愚痴を零す。そんな俺の顔を覗き込んでくる顔があった。未来とも桃園さんとも違うイタズラな笑顔であった。


「せんぱーい。なんか、必死ですね」

「んだよ、日和ひより。お前か……」

「なんですかーその言いかたは」


 そう言いながら、へへ、と笑って八重歯やえばをチラつかせている日和は、ちょうど一年前くらいにこの会社に入ってきたいわゆる「新人」であり、俺の後輩だ。自分もそうなのかも知れないが「ゆとり世代」を代表するような人だ。

 意外にも桃園さんと仲良く。休日も良く2人で遊んでいる、らしい。


「それでー」


 ニヤニヤしながら、話を切り出そうとしている。その表情は俺が思うに「今どきの女子」といった感じだった。コイツは「コミュ力」と「顔面偏差値」だけは高い。それを武器にこの会社でもやってきている、といった感じだ。


「どーかしたんですか、最近。なんかー悩んでるっぽいですけど」


 コイツの顔はあれだな。失礼かも知れないが、未来より女子高生っぽいなとか思ってしまう。別に童顔というわけではないのだが、どこかちゃらっとした雰囲気が俺の思う「JK」といった感じだった。


「いや、別に」

「なんですかーそれ。まあ、話さなくてもいいんですけど」


 話さなくて、いいんかい。

 しかし、そこが彼女の良いところだと思っている。自分から人に話しかけに行くが、人が踏み入って欲しくない場所には絶対に踏み込まない。桃園さんとは違う意味で「できる人」であるのかもしれなかった。

 日和は俺の近くで、ニヤニヤしながらスマホをいじっている。最近、女子中高生などで流行っている写真投稿用SNSをやっているらしい。凄いのかわからないが、この間もフォロワーが6000人超えただので大騒ぎしていた。

 そして俺は、その「日和のスマホ」を見て未来を思い浮かべてしまった。なんで急に怠けて動かなくなってしまったのか。理由だけでも知れりたかった。理由が分かれば自分でも、どうにでもしてやれる。


「せんぱい? やっぱりなんかヤバそーですね」


 さっきから一方的に日和が話している。実際には俺もあまり話を聞いていない。自分はもう若い子の話にはもうついていけない歳であった。そして将来コイツのパートナーは話を聞くのができる人でないとダメだ、と勝手に思った。

 そう考えている間も、日和は楽しそうに話を続けていた。


「でもーヤバいで言ったら、うちのスマホのギガもヤバいんですよー」


 そう言ってスマホを俺に見せつけてくる。彼女のスマホには既視感のあるカラフルなグラフが描いてあった。


「いや、ちょっと待て」


 自分は無意識的に声が出てしまった。さっきまで無反応だった俺が、急に話に食い付いてきたからか、日和は「え?」と動揺していた。しかし俺は、おどおどしている日和に聞く。


「今、なんつった?」


 俺は今までであげたことのないような声を出していた。面倒なことはしないをモットーに生きている俺が、こんなに必死になったのは久しぶりであった。


「えっとーギガ。ギガですよ。今月は本当にヤバイんです」


 そうだ、俺が引っかかったことがないから忘れていた。スマホには「通信制限」があるのだ。そういえば自分の家にはWi-Fiがないし、未来になってから、ずっと「使い」っぱなしになっているなら、通信制限に引っかかる。と思うと合点がいった。そうしたら、未来が寝込み出す「理由」は「通信制限」なのではないだろうか。


 そんなことは知らない日和は、どうでも良いような所を2回も言わされて、目をぱちくりさせていた。いつもと全く違う俺の雰囲気に口を開けていた。


「日和……」

「は、はい!」


 気づけば俺は、日和の肩に手を置いていた。女子高生っぽい後輩がいて良かった。そうつくづく思うのであった。


「お手柄だ。良くやった」


 日和はよくわからないような顔をしながらも「……はい!」と言っていた。が、やっぱり気になるようで、「どしたんですか?」と聞いてきた。

 そうなるよね。でもここで、スマホか女子高生になったところから話すことは出来ない。だから「それは後で話す。だから、会社終わったらちょっと一緒に来てくれ」と日和に言うと。


「は、はい……」


 何がなんだか、わからず腑に落ちない感じで、「まー、後で聞けるんならいいかー」みたいなノリで仕事に戻っていった。

 余計なことを考えさせてしまったかもしれないが、日和のことだから切り替えて仕事をしてくれるだろうと思った。

 

 そして、俺も定時で帰れるように超がつくほど全力で仕事に取り掛かった。「通信制限」が原因なのであれば助けられる。そのことがとても嬉しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます