第297話  別行動







護衛なしで船を動かし続けるのが自殺行為であることはギルドの全員理解している。


だがイングマルと別れてすぐに海賊に襲われることはない、1、2回位なら護衛なしでも大丈夫だろう、その間にどこか大きなギルドや船団に属すればいいだろうとクロードたちは思っていた。





ジョンたちは危険を感じつつも船員たちの中ではすでに発言権を失いつつあり多勢に無勢で船員たち、特にクロードの言いなりで逆らえなくなってきている。












ギルドを立ち上げた時、同じ境遇の仲間と理想のギルドを作ろうと思って儲けた収入は経費を除いてすべて皆で均等割りにしていた。



これまでのピラミッド型の階級システムではなく、同じ境遇の仲間ということで横並びにしたが初めはジョンたち5人の創業者に敬意をもって接していたが時間が経って来ると意見の言い合いとなり互に意見を曲げようとしなくなっていった。



それでも最後の決定権は船長にあり、なんとか秩序を保っていた。








しかしイングマルと別れてからはジョンたちは完全に孤立してしまい新人の船員たちはクロードの意見に従うようになりほとんどジョンたちの言うことを聞かなくなっていた。




船という逃げ場のない閉鎖空間で男だけの人間集団ともなると動物の本能がものをいうようで腕っぷしの強い者、声が大きくしゃべりが達者な者が支持される。




船乗りとしての能力は大体みんな同じようなものなのでやはりそういった見かけの人望あるものがリーダーと支持されてしまう。







自分達が望む者がリーダーとなっても船とその運航の結果が自分たちの望む物になるとは限らない。



これらの事はいつの時代でもどんな組織でも同じであろう。




良かれと思って平等なギルドを目指しても結局お粗末な結果にしかならなかった。





ジョンはこの航海が一段落したらもう一度イングマルも含めて皆と話し合い、ギルドの在り方を見直そうと考えていた。








商船ギルド「シーワゴン」は予定していた急ぎの仕事のため2隻で出港した。






イングマルは再び1人きりとなり出港してゆく2隻を見送った。





イングマルは丁度よい機会なのでエストブルグのジェームスのところに行って紹介状のお礼を言おうと思い単独で出港した。









イングマルもジョンたちも知る由もなかったが彼らの行動は多くの人々に目撃されていた。




シーワゴンは自分たちが思っている以上に注目されていて、いつも行政官、軍、そして海賊のスパイたちに監視されていたのである。





「シーワゴンの連中が別々に出港した。」という情報はすぐに彼らに知れ渡り、特に海賊のスパイたちは「チャンスだ!」と思った。






ジョンたちやイングマルが出港してすぐにアントウェルペンから高速の連絡船がこの情報を持って海賊島に向かった。







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