第272話  奪還





ジョンは不安気に「お、おう、わかった、気をつけろよ。」と言った。







辺りが暗くなってからイングマルは宿主に払いの事や料理の事を聞いた。



その隙にジョンはこっそりと宿を抜け出し、走ってイングマルの船に戻って行った。






イングマルは先に宿代の支払いを済ませて晩飯を食べ、一眠りしてから部屋の灯りをつけたままにしてトイレの窓から宿を抜け出した。



桟橋に来ると裸になり腰ベルトに短剣を差し衣装を頭の上にくくりつけて真っ暗な海中を泳いで船にやって来た。






いかり綱を登って船内に侵入した。



船は特に損傷はなく舵もマストも帆、ロープ類も無事だった。



積み荷は無くなっていたがバラスト用の石はちゃんとある。







装備に問題ない事を確認したら、まず船の左右を繋いでいるロープ類をすべて外した。


最後にいかり綱を水面ギリギリの所で切断した。



太くて固いので手こずったがほとんど音もなく錨を切断した。





切断した錨綱の先端に別のロープを繋いで、船の前方数十m離れた所にある別の船の錨にもう一方のロープを繋いだ。




その状態でジョンが来るのを待った。



待っている間に帆やロープ、舵をチェックしていつでも動かせるように準備した。








数時間後、暗闇の中ジョンたちがやって来た。



カヌーにジョンとロイドがいて陸からは見えない位置で船に横付けした。






イングマルは二人に「上がってきて。」と言った。



縄ばしごを下ろし、二人は黙って船に上がるとイングマルは「合図したらキャプスタンを巻き上げて。」と指示した。






キャプスタンは錨を巻き上げる大きな巻き上げ機で直径50cm位の杭のような形をしていて、棒を差し込んで人力でこの杭を回し重い錨を巻き上げる装置である。



通常は5人位で巻き上げるのだが錨はすでに切断している。







二人に合図を送るとジョンとロイドはキャプスタンをゆっくりと回転させた。





いかり綱は前方の船の錨綱の繋いであるので船の方が引っ張られて前にゆっくりと移動していった。



音もなくスルスルと船が滑り出し20m程進んで船列から完全に抜け出した。








イングマルは合図してキャプスタンを止めさせるとカヌーに乗っていかり綱のロープを外し今度はカヌーに乗せてあるロープを繋いだ。



このロープはイングマルの船に繋がれている。




イングマルは二人に合図を送り再びキャプスタンを巻き上げた。




船はゆっくりとイングマルの船の方に角度を向け始めた。




イングマルは自分の船に急いで向かい乗り込むと「出航!」と叫んで総帆にした。



待機していた3人に「皆も行って!」と言って3人はカヌーに乗って自分の船に向かった。



3人は自分の船に乗り込むとカヌーを引き上げてすぐに帆をあげた。






やがて2隻の船はゆっくりと沖に向かって動きだした。







彼らの船も速度が出てきて自力航行が出来るようになったら曳航用のロープを外すように合図した。





積み荷を積んでなく軽いので両船ともすぐに速度が出てきて海賊島は見る見る小さくなって行き、2隻の船は暗い夜の海に消えて行った。






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