第269話  海賊の存在意義




アントウェルペンに到着し前回停泊した桟橋に船を泊めてからジョン達のいる飯場を訪ねた。




ジョンはイングマルをみて「おー、来たか!待ってたぜ!」と言って喜んだ。



他の船員仲間も合流していた。




ほぼケガも回復していていつでも出発出来るように荷造りも済ませていた。



ジョンは「けどよー、いったいどこを探すんだ?当てもなく探したって見つかりそうもないぞ?」と聞いた。



イングマルは「大丈夫。とりあえず船に乗って。」と言って自分の船に皆を乗せた。




ジョン・アロー、アントニオ・グリーンウッド、ロイド・シーモア、オットー・カーン、ウイリアム・トルアンの5人であった。



前に船を売った時に会ったきりで名前は知らなかった。




彼らは船に乗り込むと外からは分からなかった船の内側のかご編み構造を見て、はじめて見る船体構造に驚いていた。




馬が居心地良さそうに載っているのにも驚いていた。




なぜか船内はぜんぜん臭くない。



甲板の上から新鮮な空気が入り馬房から排気されるようになっているので臭いは船内にこもらないようになっていた。



操舵しながらすぐ前で帆を操作出来るようになっていて一人で操船できる。






彼らは船乗りとしては優秀なようでこの船の特徴をすぐに把握して彼ら一人一人が船を操れるようになった。





イングマルは彼らを襲った海賊船の特徴を注意深く聞きながらメモしていった。



イングマルは大福帳みたいな大きな帳面をめくってこれまでにメモした海賊船の特徴と照らし合わせてチェックした。




だがどうもイングマルが以前クロスボウで舵手を射倒したジーベックの海賊船と特徴が似ている。




2隻の連携の仕方や攻撃手順などが同じだった。









海賊達が根城にするのはどこか分かっている。


海賊島に決まっている。




イングマルは迷う事なく海賊島に向けて進路をとった。






海賊島と言ってももちろん正式な名前ではない。




正式にはファン・フェルナンデス諸島といい、元は個人の持ち主がいたが今では海賊の巣窟となっている。




海賊の貯まりになっている事は世間の皆知っているのだが海賊退治にこの島に各国の海軍は手を出そうとしない。




その訳はこの島から得られる情報が各国にとって有益なものが多いためだった。



各国各地の産品や値段、需要と供給、政治経済情報などスパイをわざわざ送り込むよりも豊富に得られる。




特に重要なのは航路情報だった。






海流、風、水深、島の位置、薪水食糧供給の有無等の情報は一から知るには莫大な費用と時間が掛かる。



それらが手に入るならば多少の海賊の存在は見過ごされた。




ある種のWin Win の関係とも言えるが海賊達の蛮行の被害者からすれば悪魔との取引と言えるものだった。


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