第243話 極秘任務
バーデンスブルグ港は河口の両岸に広がっている大きな港町でこの州の海軍軍令部がある。
河口一杯に大小の船が停泊しマストだけ見ていると林のようだった。
水先案内人のボートに引かれて桟橋まで来ると軍の関係者やら荷運び人足が集まってきて重傷患者から下ろされていった。
軽傷患者も下ろされてカール・ド・ルシュキ号はがらんとして静かになってしまった。
艦長や船医のジョナサンや古参の水夫も下船したがイングマルたち新入りの十数名は下船を許されず、逃げ出さないように甲板下に入れられハッチには格子戸が下ろされて鍵をかけられてしまった。
船尾の点検口も鍵がかけられて抜け道がなかった。
みんなブーブー言っていたがイングマルも誤算だった。
甲板にいれば泳いで逃げることもできたが、それも出来なくなった。
ただでさえ人員確保が難しく少ない人員なのにこれ以上脱走者を出したくないのだろう。
その日はずっと閉じ込められていた。
次の日は船医のジョナサンがやって来てイングマルを気の毒に思い「何か欲しいものはあるか?」と聞いてきた。
イングマルは「それじゃ」と親方に手紙を書いて「ターナー造船所に届けて欲しい」と頼んだ。
ジョナサンは「わかった。」と手紙を受け取りまた下船していった。
とりあえずの近況を手紙に書いたのでうまく届けばひと安心だった。
軍令部に出頭した艦長は報告書を提出したあと新しい指令を受けた。
損害の事をとがめられると思っていたのにまったくそんなことはなく、海賊を退治したことを大いに誉められた。
軍にとって人命の損失はとるに足らない事だったのである。
司令部の態度に拍子抜けした艦長は続いて受けた指令内容を見て驚いた。
極秘指令は軍資金の輸送任務だった。
40kの金塊1000箱、軍艦建造の資金だった。
軍艦建造専門の造船所が集まっているハーヴェイの港町まで輸送する。
1週間ほどの行程だが陸路より安全だろうという判断だった。
最小限の人数でなるべく人に知られず任務をこなすようにとのことである。
三日後には金塊が到着する。
艦長は軍令部をあとにして官舎で今後のことを考えていた。
船医のジョナサンもやって来て艦長は「新しい命令を受けた。四日後には出航だが今回は極秘任務ゆえ君には残ってもらう。」と言った。
ジョナサンは「は?どういうことだ?私は船医だぞ」と言った。
「極秘なんでな、最小の人員で行く。なに一週間ほどの事だ。向こうで人員の補充もできる手はずなんだ。」といった。
ジョナサンは「どんな任務なんだ?」と聞いたが艦長は「それをいったら極秘にならんだろう。」と笑って言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます