第215話 量産される船
十分なフレームの材料が整うとフレームの取り付け作業がはじまった。
フレームは船首と船尾を組み立てて固定した後、船の中央から組まれて行く。
滑車を使い引き上げる者、行きすぎないように戻す者、左右を微調整する者全員が息を合わせて親方の合図とともに慎重に行われる。
はじめは息が合わず時間がかかったがなれてくると調子よく出来るようになってきた。
みるみるフレームが組まれると船の形になってきてみんなも造船の作業が楽しくなってきた。
造船所のすべての船台4つに船が並びフレームの組み立てが済み、梁の取り付けが済んだ船から側板貼り作業が始まった。
側板はゆるいカーブを描いている。
薄い板ならフレームに押し付けて曲がるのだが、一枚当たり厚さ4cm巾30cm長さ4m程あるこの商船の側板はそのままでは曲がらない。
この材料がすっぽり入るレンガ作りの窯に入れ、数時間蒸してから素早く取り出してフレームにバイスで固定して行くのである。
冷めないうちに行わないといけないので、フレームの上の方は狭い足場での作業なので大変であった。
だがイングマルはこの行程を見直し、すでに規格化しているフレームなので地上にフレームの曲線の型枠をつくり、地上で側板の曲げ加工をするようにした。
これであせることなく安全に作業出来るようになった。
側板はフレームに貫通ボルトで固定される。
ボルトと言っても現代のネジではなく鉄棒の端に切り込みが入っていて下穴を開けた穴に差し込んでからボルトの切り込みにクサビを打ち込み鉄棒の端を広げて固定するのである。
フレームに2本ずつボルトで固定して行くので船全体では数百から数千本のボルトが必要であった。
ボルト打ち込みが済んだら甲板貼り作業がはじまりすぐに子供たちがみんなでコーキング作業を始めた。
これまでは3ヶ月に1隻か2隻出来ればいい方だったが今は2ヶ月たらずで4隻出来る計算だ。
コーキング作業も70人あまりの子供らで一斉に行えばあっという間に終わった。
親方はあちこちセールスに行ってさっそく1隻売れたという。
親方の知り合いの知り合いだそうで出来が良ければまた買ってくれるそうだ。
1隻金貨120枚で売れたがイングマルヘの返済はもう少し先伸ばしにすることにした。
これをもとにさらに設備を整え、材料購入に当てた。
生産がはじまって3ヶ月目に入るとマストのない船が沖にずらっと並び、仕上げを待っている。
だがこれらはすぐに売れてしまった。
先に売れた船が評判となり、ある商会が古い船を修理するより新しいのと更新するという。
古い船が造船所に次々とやって来て、船員たちは新しい船に装備をのせ換えて行った。
その船員の2人が以前イングマルが荷役の仕事したとき食堂でどんくさいイングマルを蹴飛ばした船員だった。
二人はイングマルのことをまったく覚えていなかった。
イングマルも忘れていたので別に気にしてなかったが彼らの作業を手伝い、錨、帆布やロープ、マストなど使えるものはそのまま使うようだ。
マストは固定されておらず上に引き上げれば取り外すことが出来る。
最新の船に船員たちは喜んだが同時にボヤキも聞こえた。
「もう少し安ければ!」
船員たちは全員が雇われ水夫で自分の持ち船ではない。
船員の給金では持ち船などは夢のまた夢なのだった。
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