第202話 渡し船
その日は桟橋にボートを止めて材木商に行き、事情を話しそこで泊めてもらった。
明日は早速テストに丸太を運ぶことにした。
直径60cm長さ4mほどの大きさの丸太2本である。
1本では回転してしまうので2本平行に並べてロープで固定し真ん中辺りにマストを建てることにした。
暗くなるまでに明日の準備を済ませるとその日は早く休み、翌朝は早く起きて準備を始めた。
既に用意した丸太は川に浮かんでいる。
朝飯の後イングマルは丸太の上に乗り、岸から親方にロープで引っ張ってもらってボートが停めてある河口の桟橋まで移動した。
ボートに丸太のロープを繋いで「それじゃ行きます!」と言ってボートをこぎだした。
だが漕いでも漕いでもなかなか動き出さなかった。
やっとゆっくりと動き出すと今度はすぐには止めることが出来なかった。
イングマルは「なるほど、こういうことか。」とひとりで納得した。
やがて外海に出ると帆を挙げたがなかなかスピードが出ず、造船所と反対方向にどんどん流されて行った。
イングマルは丸太に飛び乗ると丸太にも帆を挙げて沖に舵をとった。
やがて沖に向かって進み潮を横断すると今度は造船所の方に流され始めた。
イングマルは大きく回るように舵をとるとそのまましばらく流れに任せていた。
ゆっくりと潮を横断すると今度は造船所に向かって流れて行った。
ボートに乗っているよりも丸太のほうがあまり揺れなかったのでびちゃびちゃになりながらも丸太に乗っかっていた。
ほとんどボートで漕ぐ必要もなく造船所に滑るようにたどり着いた。
桟橋に丸太を固定して上陸するとベルナールやアンリ、クレインらに出迎えられた。
親方がほぼ同時にやって来て、親方も材木商から今たどり着いた所だった。
関所を迂回しなければならないので遠回りなのであった。
「よくやった、大丈夫だったか?」と皆に聞かれた。
イングマルは「大丈夫、うんと沖に出ればいいんだよ。」と説明した。
その日から毎日丸太運びを海路で行うことになった。
日に日に丸太の本数が増えていき、一度に12本も運んだこともあった。
アンリとクレインはすぐに製材作業にかかった。
近所の者も関所を通らずにすむことを聞きつけ、ついでに色んな荷物を運ぶことになった。
関所を通る人がいたのは初めの数日間だけで、あとは全く通らない。
造船所の連中が海路で行き来していること事が、ギャング団のネズミ達によって発覚してしまった。
イングマルは狼団のネズミが造船所の回りをうろちょろしていることを早くから知っていた。
造船所は既に渡し場みたいになっていて大勢の人で賑わっていた。
この頃は荷物だけではなく人も運んでいる。
初めの手こぎボートではなく今では全長15m程の小型だがちゃんとしたコッグという商船である。
小型だが一人で操船できるので重宝された。
イングマルは本当は造船作業をしたいのに皆にお願いされるのでやむを得ず渡し船の船頭みたいになっていた。
夜は忙しくギャング団の動向を探り、あちこち調べてまわった。
狼団のネズミが造船所を見張る時間が長くなり24時間見張られるようになるとイングマルは「そろそろか?」と思い、廃材を使って造船所の回りをフェンスで囲い始めた。
パッと見ると全くのでたらめの不規則で、なんのためのフェンスかわからない。
それでもネズミはフェンスの形や配置を丁寧にメモしていた。
親方とベルナールには一応説明しておいた。
「近々、襲撃があるよ。」と。
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