第162話  ベロニカの帰還







 すぐにキャロルがやって来てコニーの名を呼んで介抱した。



しかし、なんで彼が難民となっているのか?




キャロルの家に人買いがやってきたとき、彼だけが抵抗し袋だたきに会いボロボロになりながらイングマルたちに知らせた。




その後皆が去った後、彼の家は人買いの生き残りからも村人からも恨まれるようになり、村八分のようになっていた。




両親は村に逆らわず、恭順するようにしていたがコニーだけは反発していた。



村にも親にも逆らい、何度もキャロルの後を追おうとしたそうだ。




その度連れ戻され殴られ、改心させようと村の若者達だけの集団に入れられ、ずっとそこで親から離れて寝食もその集団の中で行い、村の一員となる「しつけ」と称していじめられていた。




やがて王都の役人がやってきて、人買いと関わりのある人々を取り調べた。



キャロルの両親も取り調べられた。




役人から目をつけられるのを恐れた村人はコニーを生け贄にして「人買いの手下だ。」と告発された。




そのまま人買いの協力者らと一緒に追放された。



今日まであっちこっちさまよい続け、どこに行っても人々から石を投げられていた。





キャロルは泣きながらコニーの話を聞き「よく頑張ったね。もう大丈夫だよ。」と言った。




コニーはずっと虚ろな目で独り言のようにつぶやいていたが、キャロルの声を聞きキャロルの顔を見てやっと現実を受け入れられたのか「わーっ」と泣き出した。



いつまでも泣いて、そのまま疲れて寝てしまった。




イングマルもキャロルの恩人なのでコニーを新しい仲間として受け入れ、一緒に旅をすることになった。








コニーはすぐに元気になり、みんなを見習って忙しく働いていた。



イングマルもコニー用の短剣やクロスボー、馬を準備し、1からコニーに稽古をつけていた。




コニーは本来守るべきキャロルに何かと世話を焼かれて、なんだかはずかしく早く1人前になりたいと一生懸命だった。




コニーはキャロルと同い年で、イングマルより年上だった。



そう言う部分が少し妨げとなり、女性たちのように素直になれずイングマルが指導しようとしてもあえて従おうとせず上達を阻んでいる。



普段は犬やとりちゃんとじゃれて遊んでいるイングマルに「こんなやつに負けてたまるか!」とイングマルへの対抗心が支えとなって、回り道しても技を身につけていた。







コニーはこの隊のリーダーはローズかフランシスと思い込んでいたので、2人のことは恐ろしくて頭が上がらず、顔もまともに見れず口も聞けなかったが、年の近いイングマルとは気安すかった。


イングマルも年の近い同性の仲間が出来て嬉しそうであった。





だが一緒に過ごしている内、何かとイングマルがあれこれと皆に指示を出しているのを見てだんだん不思議になって一体どうなっているのかわからなくなってしまった。




イングマルもそのことを感じ、少々面倒くさかったが指示はローズかフランシスから出されるようにした。







コニーが馴染んできた頃、ベロニカの村にやってきた。



最後の晩餐でとても美味しい料理を食べることができ、コニーはそれだけで家を出たことに満足していた。




しかし、肝心のベロニカはあまりうれしそうではなかった。



「どうしたのか?」と聞いたが、口ごもって答えようとしなかった。




ようやく聞き出すとベロニカの家では食い扶ちがなく毎日のように両親に「口べらしに誰か出て行かないか。」と愚痴を言われていた。




毎日のように聞かされていたのでその意味するところがわからなかったし、気にもしていなかった。




しかし、本当にさらわれてしまい両親の希望通りになり、自身の立場がどんなものか身をもってわかると、両親が自分に毎日投げかけていた言葉がいかに残酷なものであったか理解した。




そうは言っても「本心であるはずは無い、自分がさらわれてしまったことを悲しんでいるに違いない。」と願っていた。




本当の両親の気持ちを理解するのが怖かったのである。








イングマルは「帰ればわかることだ。」と平気な顔で言う。




冷たい言い方にローズは睨んでいたが、その通りでしかない。








ベロニカの家にたどり着くと村人も両親も驚いていたが開口一番「帰ってきても食い扶ちがない!」と言い放った。





ローズもフランシスも「何いってんの?!」と両親をなだめて落ち着くよう説得したが「今更帰ってこられても困る、ここには置いておけない!」とケンモホロロである。



見ている村人も迷惑そうにしていた。




これが本心なのかどうかはわからないが、物理的に無理な事は一目でわかった。



村には本当に何にもないのである。




村全体が貧困にあえいで食えない状態である。




親としての情愛を示すことすら困難な状況であった。




ベロニカはすぐ家から出て馬車に乗り込んだ。




村も両親も無事であったのに、とても悲しかった。





戦争や災害で家や両親を失ったのでは無い、貧困によって家族を失ったのである。



心を断ち切られた悲しみは死別の悲しみと同じか、それ以上に悲しいものである。



戦争や災害と違い、貧困は自己責任の名の下ほっとかれるのが世の常である。




だが悲しみ苦しむ人間がいる限り、貧困も戦争も災害も同じである。




放っておいて良いはずがない。




我らは獣では無い、同じ大地に生きる同胞ではないか。






予想していたとは言え、ベロニカは悲しかった。



本当の両親に捨てられていたのである。




同じ思いをしていたローズはベロニカを慰めていた。




ベロニカは改めてローズがもっと悲しい思いをしていたことを認識し、自分もローズのように強くなろうと決心した。




それにみんなが本当の家族と思い、今自分がなんて幸せなんだと思えて悲しい涙がいつしか嬉し涙に変わっていった。












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