第129話  ナルシシスト3







 ロングボウは非常に大きな弓で、威力も飛距離も普通の弓とは比べ物にならないほど大きい。


しかも素早く射てる。



「やばい!!」イングマルは全速力でジグザグに走り、距離をとって200m以上離れたのに長い矢が降ってきた。




かろうじて命中はしなかった。




しかし、こうなるとうかつに近づけない。





この距離ではイングマルのクロスボーでも当てるのは難しい。





ロングボウは、多数の一斉射撃で弾幕を張ることで相手を射倒す。


しかも射程が長い。




クロスボウと違い速射性があるので、数発外してもどれかの矢が当たれば良いというものであった。




ローズはロングボウを見るのは初めてであったが、イングマルの対応を見てすぐにこの武器の特徴を理解し「このままではまずい」と判断し、円陣を解いて十字路の近くの小高い丘に移動し始めた。




手際よく、丘の頂上に円陣を組みなおした。





武装集団は馬に乗り、再び馬車に向かって移動し丘の下の200mまでやってきた。





そこで馬から降りて、再び密集体形からロングボウをつがえた。



すぐ曲線を描いて矢が飛んでくる。






速射性の高い矢は雨のように降ってきたが、馬車の荷台には山のように商品のカゴやバスケット、炭が積んであったので矢を防いでくれた。





矢は絶えることなく降ってきたが、ほどなくしてから馬車から大型のクロスボウの射撃が始まった。




直接照準の命中精度はロングボウとは段違いである。





大型のクロスボーは各馬車に4丁しかないが、一回の射撃で確実に倒されてゆく。




相手は損害に構わず、この攻撃で倒せると信じて矢を放ち続ける。




イングマルも林の中に移動して、後方からクロスボーの射撃を行った。



ギリギリの距離だったが命中する。




数名の者がイングマルの方向に向けて矢を放ってくるが、林の中では弾幕の効果がない。




イングマルは新しく作った目潰しを放った。




握りこぶし大の大きさの紙に包んだ生石灰の粉やからし粉、トリカブトの根を粉にして混ぜたものを数発放つ。



密集体形の集団は目潰しが命中すると、咳き込んで戦闘不能となってしまった。




イングマルは勝機と判断して、さらに近づいて30mほどの距離から走りながら正確にクロスボウを射ち続けた。




相手は苦しみ悶えていたがもはや方向がわからず、目潰しに驚いて馬も逃げてしまった。




目潰しの煙は既に消えていたのだが、粘膜に着いた粉の効果はまだ効いているようで相手は苦しみもがいていた。




戦闘集団としては、もう機能していなかった。




イングマルはすべての矢を打ち尽くしてしまい、剣をかかげて集団に向かって突っ込んでいった。




至近距離に入られて、もうロングボウは使えなかった。




イングマルは武装集団の中で暴れ回っていると、馬車からも8騎の騎射専門が出て散開し武装集団を4方から取り囲んでクロスボウを放ち続ける。



イングマルに当てないよう注意して援護するように攻撃する。



さらにもう1騎、ローズが馬に乗って突撃してきた。





ローズは集団の中を走り抜けるだけで、次々と相手は倒れてゆく。



ロングボウの射手は1人前になるまで何年もかけて大弓専用の体に作り変えて行く。




そのためベテランほど体の体形はいびつなものになり、上半身が異様な筋肉のつき方をするがロングボウの射撃以外は全く役に立たない。



格闘戦など全然不向きで、満足に走ることすらできない。




たった2人の剣士相手に、なすすべもなく倒されてゆく。





2人から逃れようとすれば、外からクロスボーの援護射撃で倒されて行く。




80騎もいた相手は、半数は矢でやられ半数はイングマルとローズの剣でやられてしまった。




街道での遭遇戦で、街道を通る多くの無関係な人たちが遠くからこの戦いを見物していた。




遠くから見ていると、黒い大集団の中のたった2人が次々と黒い塊を倒していく、異様な風景であった。




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