第120話  砦の戦い




イングマルは旅の道中、戦いに有利な場所を見つけるとしばらくそこに留まり、あっちこっち調べて回った。




深い森や湿地、高台、谷、崖などを見つけると隅々まで回って、どれくらい役立つか調べ地図にポイントを記して行く。




イングマルはこのまま敵の襲来をおびえながら過ごすより、こちらから攻撃を仕掛けるため網を張ることにした。




次の目的地をクリスタの村に定め、その村から程近いところに防衛に適した絶好のポイントを見つけた。




深い渓谷の中の川の別れになっていて、切り立った崖の谷を抜けると少し広場になっている。




その広場のなかに高さ4mほどの高台があり、広場を見下ろす形になっていた。




この広場に入れば、高台から集中攻撃ができ、崖の上から側面攻撃もできる。



天然の桝形虎口という陣地の形になっている。



籔だらけで分からなかったが、イングマルの鼻は絶好のポイントを嗅ぎ付けたようですごい勢いで藪を刈り払い、刈り取った木で柵を作り石をどけて崖の上に運んだ。




みんなもイングマルの言うとおり黙々と作業を行い、わずか1週間ほどで70m×70mほどの広場と、その中に40m×20mほどの柵を巡らせた高台が出来上がった。



広場の周りは崖で一方は流れの速い川に囲まれており、谷の入り口を藪でカモフラージュして隠すと一行はクリスタの村へ向かった。




クリスタの村は町と言っていいほど大きな村で、人の出入りも多かった。




無事クリスタが帰ってきて村は大騒ぎとなり、イングマルたちは今回わざと長逗留し「人買いから逃げてきた。」と目立つように振る舞っていた。




毎日のように飲んで騒いで過ごし、これまでのいきさつを大げさに吹聴して回り、ローズは毎日広場や教会で旅のいきさつを講演した。





美しいローズの演説は見聞きしたもの全ての涙を誘い、講演の最後はいつも「明日への重い扉を押し開き、希望を持って旅立つのだ!」と、剣を抜いて締めくくった。



会場は割れんばかりの拍手喝采で、連日ローズの演説を聞きに遠くから人がやってきて大入り満員である。




イングマルは、「これはちょっとした興行になるな。」



「いくらくらい儲かるかしらん?」と思っていたが、儲けるための行動では無い。



敵を誘い出すためである。




1週間以上そのようにして過ごし、やっと出発することにした。




引きとめるみんなを振り払うのが大変だった。



ローズは「すべての人を返さねばならないから、みんなの無事を祈って送り出して欲しい。」とみんなの前で演説してやっと出発できた。




しばらくの間ゾロゾロとついてくる人がいたが、半日ほどしてやっとイングマルたちだけになった。




しかしイングマルにはつけられている事はわかっていた。




ゆっくり移動し、遠回りしてから例の谷に入っていった。




イングマルは砦の高台に半分の人を配置し、ローズに指揮を任せた。




残りの半分を周囲の崖の上に配置し、自分は谷の入り口で隠れて偵察していた。




数時間してから、武装集団が現れた。





日暮れ前に襲撃するつもりなのか?馬車の轍の後を追って谷に向かって行く。




イングマルはすぐみんなの元へ向かい、敵襲の合図を送り武装集団が全員広場に入るまで待つように指示した。





数はおよそ100騎で3種類の軍団とわかった。


装備や服の色などで、おおよその見当がつく。





重装騎兵と軽装なものが混ざっている。




おそらく重装騎兵は前の戦いで生き延びた生き残りで、新手と合流しているのだろう。





全員広場に入ったところで広場の出入り口をバリケードで落として塞ぐと、一斉にクロスボウの射撃が始まった。









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