第119話  混乱







 カスペル・コックが倒されたあとの生き残りの人買い集団は、予定されていた集合地点に集り詳細を報告した。




しかしこの集団のメンバー全員が激しく動揺していた。




彼らの部隊は、8つの人買い集団全体の中でも最強と言われていた。



装備もフルスペックなので、これ以上上げるゆとりは無い。




あまりの装備の重量のため、馬も他とは違い大きな輓馬を使っている。




重装騎士と同じ装備のため、1人で馬に乗り降りもできない。



しかし、彼らは今までの戦いで負けたことがなかった。



倍以上の正騎士や、傭兵との戦いでも負けないのである。




そんな中でも、カスペル・コックは最強であった。



1対1の戦いで、彼にかなうものはいなかった。



それが女たちにやられた、というのは大変な衝撃だった。



というか、訳が分からなかった。




女たちしかいないのにクロスボーの攻撃はきわめて正確で、こちらから攻撃するどころではなかった。



盾に身を縮めて防ぐのが精一杯。




相手のクロスボーの威力が不足していたために救われたが、もっと強力だったら全くどうしようもなかった。




これ以上装甲を増やす事はできず、同じ重装備をした人員も補充できそうもなかった。




彼らは一族や同郷の者たちで集まっており、この重装備を身に付けて行動できる強者はすぐには見当たらない。




最強のリーダーを失って、全員戦意を失っていた。




老練なものほどそうである。




若いものはリベンジを叫ぶが、彼らは人買いという商人なので割に合わないことをしたがらない。



リーダーを失い、半数の仲間を失った。




この後再戦しても無傷でいれる保証もなく、あの獣のような少年の戦いは全く容赦がなかった。




リーダーを倒したあの獣を、倒せる気が全くしなかった。




残念ではあるがこの仕事はもう諦めて手を引いた方がいいのではないか、という思いが彼らの中に広がりつつある。










調査官のジャンポールは、大きな街にしばらく滞在して王都からの定期連絡を待っていた。




一緒に行動していた元締めのニコラスは、手下からの報告を受けてジャン調査官と別れてどこかに行ってしまった。



ほどなく王都から来た伝令者は、ジャンの友人フランシスであった。



傷のいえたフランシスは、王都に行って事件の真相を高官たちに知らせた。





アラン・コンペの館での事件の真相を知らされた王はそのままフランシスに、ジャン調査官と合流し人買い集団の殲滅と女たちの保護を命じた。




あっちこっち包帯をしていたフランシスは、ジャンに会って王からの命令書を渡し事件の真相を知らせた。




残酷な賊と思っていたのは被害者たちであったことを知らされたジャンは、驚きのあまり頭がこんがらがって少しパニックになってしまった。




フランシスとジャンは、急ぎイングマルたちを探すため一緒に街を出発した。










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