第56話 再会
イングマルは馬車に追いつくと辺りを警戒しながら本隊に合流する。
隊商はすでに移動を始めていた。
十数名が怪我をしたようだが、命に別状は無いようだった。
その日のうちに隊商は目的地の街に到着し、街では歓喜を持って迎えられた。
町中がお祭り騒ぎとなった。
町の1番大きな建物で歓迎会が催された。
馬車を盗賊から取り返してきたスタインべック商会の新人4人が、1番の功労者と称えられた。
4人は町中の美女から熱烈なキスを受けて、大はしゃぎであった。
イングマルは会場にはおらず、納屋で馬や鶏達と遊んでいた。
盗賊たちが乗り捨てていた馬も数十頭収容された。
伯父達リーダーは街の代表らと会談し、今後を話し合っている。
イングマルは疲れてそのまま納屋で馬の横で稲わらにくるまって寝てしまった。
翌日から荷の整理が始まり、帰りの荷を積んで行く。
帰りは人も乗せていくようだ。
来る時よりも少ない荷になるので、積み込み作業はすぐに終わった。
今回、兵力が足りなかった反省からこの町から新しい護衛がつくことになり、総勢200名以上になった。
盗賊団を撃退し盗賊の多くが負傷し、馬も多数失ったので彼らが回復する間、何度か街を往復することになった。
人員物資とも同じ時に移動し、強力な護衛をつけることでこのルートはもう盗賊の襲撃を受けることがなくなった。
大隊商から戻りしばらく後、新米の4人アルベルト、サミュエル、ベルント、マルティンらは、ローテーションで2人組みとなっている。
互いにライバル視していたので競い合い、商会内での売り上げはトップクラスだった。
仕事が終わってイングマルがいつものように自分の馬車の手入れをしていると、4人がやってきて強引にイングマルを連れ出した。
いつもいつも仕事が終わるとさっさと帰って付き合いの悪いイングマルを、少しでも外へ連れ出そうと町の酒場へ逃げ出さないように男たちに両脇を抱えられ宙ぶらりんな状態で連れていかれた。
イングマルは酒は飲めないし、賑やかな場所は苦手だったのだがされるがままだった。
賑やかな店内に入ると4人の男達はもうすっかり顔なじみとなり、あちらこちらから声がかかる。
いつもの席に男たちが座ると、オーダーを取りに来た娘がイングマルを見て「いらっしゃい。こちら新人さん?」と声をかけてきた。
みんな顔を見合わせて苦笑いだった。
アルベルトが「こいつは仕事仲間のアウグスト。こう見えても俺達を商人にした張本人だ。」といった。
イングマルは「張本人だなんて。僕はおじさんに紹介しただけだよ。」と言った。
聞いていた娘はイングマルの声と顔をじーっと見て、メモを落とし口元に両手をあててイングマルをみつめた。
みるみる涙目になり、声が出なくなった。
みんな驚いて見ていたが男たちはイングマルの胸ぐらをつかむと再び宙ぶらりんにして、
「テメェー!俺たちのニーナに何しゃがったぁー!」と言ってきた。
イングマル自身も驚いて、首をブンブンふりながら「何にもしていない! たぶん!」と抗議した。
二ーナはそれを見てあわてて制止した。
「違うの違うの!」と皆をなだめる。
「彼は私たちを助けてくれたの!」と言った。
みんなきょとんとしている。
イングマルも何のことか分かっていなかった。
ニーナはイングマルをじっと見つめ「ねぇ、覚えてない? 公爵のところから逃げ出した親子を助けたことがあるでしょう。
1日中弟を背負って、私の手を引いて助けてくれたじゃない。」
ニーナはまた涙目になった。
イングマルはやっと思い出し「ああ! 」と声をあげた。
あの時はじめてキスされたことと、まだ学園前事件の前だったことも思い出した。
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