第41話 潮汐
叔父夫婦二人はイングマルに「よく無事だったな」と声をかけた。
2人とも少し白髪が増えたようだ。
イングマルは泣きながら謝り感謝した。
1年足らずであったけれど、イングマルが一回り大きくなったようだ。
家にはすでにイングマルの部屋が用意されていて装備を下ろした。
使用人たちに風呂に入れられ散髪をさせられ、用意されていた新しい服を着てやっと一息ついた。
犬のトミがずっと側にいてはなれなかった。
皆で食卓を囲む日が再びくるとは思っていなかった。
まして犬のトミと会えるなんて思ってもいなかったので胸がいっぱいで気が緩むとすぐ泣いてしまいそうになった。
こんな幸せ与えられていいのだろうか?夢で終わるのではないだろうか?目が覚めると血と土と薮の中にいるのではないだろうか?そんな不安がよぎる。
新しい家に身を寄せてから毎日うなされるようになった。
平静を取り戻せば取り戻すほどひどくなる。
いつも大勢に襲われ、追われている夢を見る。
もだえ苦しんで目が覚め、冷たい汗をびっしょりかいていた。
夢を見ないよう日中体を酷使して働いて疲れさせてそれでもダメだった。
犬がいつも側にいてうなされ始めると鼻で起こしてくれるようになった。
夢で良かったと思う時と夢ではなかったと後悔する時と日によって様々である。
しばらくは外出は控え家の中の仕事を手伝っていたがやがて街にも使いで行くようになった。
名前は偽名のまま使うことにして家の使用人たちに「これからはアウグストと呼ぶように」と叔父が言っといてくれた。
数週間たった。
エストリア国内ならば商売で叔父についてあちこち行くようになっていた。
イングマルはやはり人目に付かないようにする癖がついているので「人付き合いが悪い」と商売仲間から言われるようになっていた。
仕事の事以外では用事を済ませると、どこにもよらずさっさと帰ってきてしまう。
家の人たちも気にしていたが「しばらくは仕方がない」と思っていた。
同世代の友人もなく周りの者たちばかり心配していたがイングマル本人は全く気にしていなかった。
彼にとっては犬や動物達と一緒にいられれば、それで満足だった。
商売は順調だった。
エストリア国内あちらこちらに行き、そこにないもの必要なものを調べ運んでくる。
そこにあるものを仕入れ、街に戻り売る。
この繰り返しであった。
日用品などの売買はもう1人でまかされるようになっていた。
1人で何日もかけて馬車で移動することもできるようになっていた。
馬車での旅の時は不思議とうなされなかったので、イングマルも町にいるよりその方がよかった。
「何日も一人旅は危険だ」とあまり遠くには行かせてもらえなかった。
しかし旅の時は商人は皆護身用に武器を持っていく。
誰でもそうなのだがイングマルも愛用の武器、防具を持つと不安や恐れがなくなる。
武器に頼るのはそれだけ心の弱さの証明でもあった。
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