第36話 峠
馬上の男は剣をぶんぶん振り回して襲ってきた。
イングマルはしかたなく斧で受けようとしたが思った以上に斧が重くて、ちゃんとさばき切れない。
仕方がないので買った鍋を左手に持ち、盾の代わりにして剣を受ける。
受ける度にポコポコと良い音があたりに響く。
「このガキが!ポコッ!。さっさとポコッ!やられポコッ!ろ!ポコッ!くそったポコッれ!」。
相手は息が上がってゼーゼー言っている。
イングマルは鍋の横から顔を出し、鍋をポコポコ手で叩いて相手をおちょくる。
「くそがー!」と叫んできた相手の顔面を思い切り鍋で叩いた。
「ポッコーン!」という音がして相手の鼻が潰れて前歯が何本か折れ、そのまま落馬して伸びてしまった。
新品のナベ底が少しへこんで残念なイングマル。
他の者が「やろう!」と次々に剣を抜いて襲ってきた。
イングマルは馬を走らせながら1人ずつ斧の背の部分で相手の顔や腹を打つ。
あっという間に残り1人となり、相手は自分しか残っていないとわかると走って逃げてしまった。
他の者たちもふらふらと逃げて行くのが見えた。
イングマルは装備を整えるとそのまま帰路についた。
ほどなく行くと血まみれの男が倒れていた。
どうやら商人のようだ。
数箇所深手を負い、もう虫の息だった。
山賊にやられ主人が連れ去られたという。
イングマルに「助け出してくれ!」としがみついて懇願しながら男は死んでしまった。
イングマルはどうしようか迷ったがこの先の峠に向かう道を行くことにした。
峠の手前で武器や防具などを隠し、革のベストを着て先に進んだ。
峠にさしかかると数軒の家があるがどれもボロ家で長く使われていないのだろう。
そこに武装した男がいた。
イングマルに近づき「何処へ行くのか?」と聞いてきた。
イングマルは「街から商売の帰りです。」と答えると、広場の方へ連れていかれた。
屋敷の入り口に来ると「マヌケがやってきたぞ。」という。
屋敷からぞろぞろと人が出てきた。
皆、山賊である。
イングマルは襟を捕まれて納屋に放り込まれた。
「何をするんですか!」と言うと「お前らは商品だ。」という。
納屋には10人いた。
男4人、女6人。そのうち男の2人は傭兵のようであった。
商人、農民、貴族らしい婦人もいた。
どうやら道で出会った男の身内らしい。
皆おびえて、すみっこでうずくまっていた。
彼らに事情を聴くと「旅の途中で捕まってしまった」という。
傭兵2人もいたのに相手が多数だった。
「30人程いた」というが、今は20人程しかいない。
本隊が明日やってきてどこかにみんな連れて行かれるとのことだ。
皆、絶望しうちひしがれていると数人の男たちが入ってきて婦人を抱えると乱暴しようとした。
後からやってきたリーダー格の男が「夫人は高く身代金を要求するために手を出すな。」という。
農民の娘が代わりに連れてこられ、乱暴に服を破き始めた。
娘が助けを求めるが、だれも助けようとはしない。
イングマルは飛び出して彼らの間に割って入ると、服を脱いで「ワンワン!」と犬の真似をして吠えた。
四つん這いで裸になり、犬になりきっている。
男たちの周りをぐるぐるまわってワンワン吠える。
男たちは驚いて蹴ったり殴ったりしていたがイングマルは構わずほえ続けた。
やがて面白がって男たちははやし立て、男たちを外へ導くとなおいっそう激しく吠え続けた。
他の男たちも騒ぎを聞きつけて集まってきた。
イングマルを取り囲んでゲラゲラ笑いながらはやし立てる。
そのうち男たちは馬の糞を投げつけはじめ、イングマルはそれを飛んで顔で受けた。
ますます笑いが大きくなる。
男たちは腹を抱えて笑い転げた。
そのうち石やら棒やらなんでも投げつけてきた。
イングマルはそれを全て顔や尻、口で受けた。
そのうち大きな石を投げられ額にあたり血が流れ、ますます笑いころげて男たちはゲタゲタ笑いながらイングマルを棒で殴り始め、イングマルがうづくまるとみんなで殴るけるの暴行を続けた。
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