第31話 ニーナ
少年イングマルに助けられた少女ニーナは親子とともに旧領主に面会することができてヴァーベルト公爵領での出来事、多くの女子供が人質になっているのを訴えた。
この領主はここぞとばかりにエストリア国のベネディクト国王に事態打開を訴えた。
事実上、領土を奪われていたこの領主は人質の解放と領土奪還に動き出した。
ニーナの一家は領主の下に保護され家を与えられ、一段落してやっとほっとしていたがニーナは自分の愚かしさに苛立っていた。
自分たちを助けてくれた張本人の少年の名前を聞いていなかったのが悔やまれてならない。
「もう一度会いたい。会ってお礼が言いたい」と。
他国にあって名前もわからない。
少年ということしか分からない。
多分、二度と会うことはできないだろう。
平穏な日常が取り戻されるとともに募ってくる想いに、悔やまれてならなかった。
しかしニーナの懸念はすぐ吹っ飛ぶことになる。
少年の似顔絵の指名手配書が国中に張り出されていたのである。
字の読めなかったニーナは街行く人に手配書の内容を聞いて回った。
「賞金首のイングマル・ヨハンソン。」
それが彼の名だとわかると彼女は神に感謝した。
殺人の手配書を見て神に感謝するのは彼女ぐらいだろうと思われた。
しかも公爵の息子と仲間を殺したというのはただ事ではない。
「今度は自分が彼を助ける番なんだ」と心に誓った。
町の居酒屋で働きはじめた彼女は情報収集を始めた。
が、特に何もしなくても情報が入ってきた。
なにしろその話題でもちきりだったのである。
隣国にまでイングマル事件は大きなニュースとなっていた。
すでに追手をことごとく撃退したことがわかると、ヒーローのように言う者も出てきた。
この国ではヴァーベルト公爵は諸悪の根源のように言われて、全く評判は良くなかった。
その敵としてイングマルは見られ「たったひとりで公爵と戦う英雄だ」と言うものまで現れる始末だ。
しかしこの国からだいぶ離れた反対の南の方の山にいるらしいとのことで会いに行きたかったがエストリアから出ることもできず、ただイングマルのニュースを待つしか今のニーナにはできなかった。
しばらくして公爵領への出兵の噂が出てくると今度はその話題でもちきりとなり、イングマルのニュースがほとんど入ってこなくなった。
秋になると正式に出兵が決定され国民に布告がなされた。
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