第14話 閉会後
しばらく会場がしんと静まりかえりやがて拍手、どよめき、驚きやら非難やらが入り交じり大騒ぎとなった。
レフリーが「それまで!」と合図を送り、イングマルは一礼して試合が終わった。
イングマルはすぐ平民出身の生徒たちに取り囲まれた。
「よくやった!」と皆に我が事のように喜ばれしばらく放心していたがやっと喜びがこみ上げてきた。
学園始まって以来平民が貴族を試合で打ち破るのは初めてであり、客席からも父兄や一般の見学者からも拍手が止むことがなかった。
学園長から閉会の挨拶があり、イングマルに剣士の杖を授けた。
イングマルはそれを両手で受け取り頭を下げた。
拍手がいつまでも続いた。
多くの人々は拍手を惜しまなかったが、一部の貴族の関係者らは明らかな怒りや憎しみの感情をあらわにする人々がいた。
イングマルは寮に帰り食堂で盛大な祝いが設けられた。
その日、夜遅くまで騒いでいたが翌日イングマルは学園長に呼ばれ部屋に向かった。
イングマルも聞きたいことがあったので部屋に入ると学園長に「まずはおめでとう、よくやった」と祝いの言葉をもらった。
「ありがとうございます。学園長にお話があります」とイングマルは切り出す。
「まぁ、かけたまえ」と椅子に勧められて机の前のソファーに座って「まずフランク、ケイズのことです。」と言うと、学園長は少し動揺したかに見えた。
「 試合後、フィリップヴァーベルト、マティアスフェルトのほか数名に医務室で暴行を受けたと聞きました。」
「さらにラルフストレームらの試合中の明らかな反則行為です。
剣士とは思えない振る舞い、学園長はどのようにお考えですか。」と聞いた。
「フランクの事は聞いている、気の毒なことをしたと思っている。」と言ったきり何も言わない。
イングマルは「それだけですか、?処分は?」と聞いたが、学園長は後ろを向いたまま「公爵家相手には何もできんよ。国王と言えど手は出せない。
今度のこともフランクに非礼があった上でのことでの指導、ということで片がついた。」
「そんな!フランクは殺されそうになったのですよ。死んでいてもおかしくなかった。」
「たとえ誰が殺されても公爵家を裁け、処分できるのは国王だけだよ。
一命はとりとめたし彼は勝負に負けたのだから、今回の件はこれで終わりだ。」と告げた。
「仕方があるまい」と言う。
「納得できません!」と詰め寄ると学園長は「控えよ!」と語気を強めてきっぱりと言った。
「これが御政道というものだ!君にも貴族の称号と同じ名誉を受けた。
ならば納得するしかない。
国も学園も、定まった体制への攻撃を許さない。たとえ誰であろうとだ。」
「まして君は平民。意見を言える立場では無い。」
「わかったら下がりたまえ。」と冷たく言われた。
イングマルは何も言えず一礼すると部屋から出て行った。
寮に戻るとロベルトにあった。
「フランクのお見舞いに行きたいのだが、フランクの家を知っているかい。」と聞いてみた。
「知っているよ、そんなに遠くない」という。
大会の後、1週間ほど休みがあったので叔父の家に行くついでにフランクの見舞いにも立ち寄ることにした。
早速、荷造りをして学園を後にした。
フランクの家は学園の近く半日ほど歩いたところ町外れにある鍛冶工房である。
街でも有名な工房で数十人の職人が働いている。
原料や燃料を運ぶ荷馬車が出入りしハンマーが鳴り響いている。
工房の裏に小川があり、いくつもの大きな水車が回っていた。
その動力でふいご、ハンマー、グラインダーを動かしていた。
早速、自宅に入るとフランクを見舞う。
フランクは全身包帯を巻き、顔にも白い布がかぶせられていた。
しかしなんとか一命をとりとめた。
当初、大きく腫れ上がってていた体はだいぶ治まっている。
しかし意識は回復していない。
両親に学園長から聞いた言葉をそのまま伝えた。
「あぁワシも聞いた。先日使いのものが来てフランクの非礼が原因だと。
だからこんなことになったんだとぬかしおった全く。」
母親はただ泣いていた。
「しかし、これ以上何もできん。せめてお前さんが仇をとってくれたことが心の救いじゃ。」と言った。
イングマルは「仇を取るなんて、そんなつもりは。」という。
「お前さんらも気をつけろよ。奴らがこれで終わりにするとは思えない。」
イングマルもそれは感じていた。
これは終わりではなく、始まりなのだと。
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