第1264話京にう向かふ路上、興に依りて預め作りし侍宴応詔の歌

京(みやこ)にう向かふ路上、興に依りて預め作りし侍宴応詔の歌一首 短歌を并せたり。


蜻蛉島  大和の国を  天雲に  磐舟浮べ

艫に舳に  真櫂しじ貫き  い漕ぎつつ  国見しせして

天降りまし  払ひ平げ  千代重ね  いや継ぎ継ぎに

知らし来る  天の日継と  神ながら  我が大君の

天の下  治めたまへば もののふの  八十伴の男を

撫でたまひ  整へたまひ  食す国も  四方の人をも

あぶさはず  恵みたまへば  いにしへゆ  なかりし瑞

度まねく  申したまひぬ  手抱きて  事なき御代と

天地  日月とともに  万代に  記し継がむぞ  

やすみしし  我が大君  秋の花  しが色々に 

見したまひ  明らめたまひ  酒みづき 

栄ゆる今日の  あやに貴さ

(巻19-4254)

※蜻蛉島:「大和」にかかる枕詞。


京に向かう途中、興に乗じて(都での宴会のために)前もって作った歌一首。短歌を併せた。


大和の国を、天雲に磐船を浮かべ、艫にも舳にも櫂を目一杯取り付けて、漕ぎながら国見をなされ、天下りをされて、従わない者たちを、払いのけ平らかにされ、千代を重ねて治めて来られた日の神、その神の後継者として、神の御心のままに、我が大君が天下を治めになられるので、数多くの官人を慈しまれ統率なされ、支配なされる国の四方の民にもれなく御恵みを賜れるので、遥か昔の御代においても見られたことのない瑞兆が相次ぎました。何事も起こらず、泰平な御代として、永遠に語り継がれることとなるでしょう。あまねく天下を治めになられる我が大君が、秋の花の、その色とりどりを楽しまれながらご覧になり、その御心を晴らせられ、御酒宴をなされ、御栄光を輝かされる今日この日は、何と貴い日でありましょうか。



反歌一首

秋の花 種々にあれど 色ごとに 見し明らむる 今日の貴さ

                     (巻19-4255)


秋の花は、様々にありますが、その色ごとに、ご覧になられ、御心を明るくされる、今日の日は、何と貴いのでしょうか。


出世して京に戻るのだから、家持は嬉しくて仕方がない。

京では帝の酒宴で歌を詠むことになる。

だから、気がはやって、前もって作ったりする。

それで詠んだ歌は、かなり時代がかった、「帝褒め」の歌。

ただ、聖武天皇が、どこまで家持に関心があったか、それは不明。

藤原氏の勢力に、ほぼ屈し続けた天皇なのだから。

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