第1191話天平十八年の正月(5)大宮の 内にも外にも 光るまで

大伴宿祢家持の、詔に応へし歌一首


大宮の 内にも外にも 光るまで 降れる白雪 見れど飽かぬかも

                     (巻17-3926)


藤原豊成朝臣 巨勢奈弖麻呂朝臣 大伴牛養宿禰 藤原仲麻呂朝臣

三原王 智奴王 船王 邑知王

小田王 林王 穂積朝臣老 小田朝臣諸人

小野朝臣綱手 高橋朝臣国足 太朝臣徳太理 高丘連河内

秦忌寸朝元 楢原造東人


右の件の王卿等、詔に応へて歌を作り、次に依りて奏しき。登時記さず。その歌漏失す。但し、秦忌寸朝元は、左大臣卿の謔れて云はく、「歌を賦するに堪ふることなくは、麝を以て贖へ」といひき。これに因りて黙しやみにき。



大宮の内にも外にも、光り輝いて降り積もった白雪を見ていると、いつまでも飽きることがありません。


右の王卿たちは、詔に応えて、歌を詠み、序列の順に奏上いたしました。しかし、その時すぐに記録することをしなかったので、歌詞については、わからなくなってしまいました。ただし、秦忌寸朝元につきましては、左大臣橘卿(橘諸兄)が戯れに、「歌が詠めないようであれば、麝香を以って、その償いとするように」と言われたことから、黙り込んでしまいました。


名前が列挙された人たちは、「歌」が漏失した人たち。

万葉集中でも、このような例は、ない。(わざわざ、そんなことは書かない)

大伴家持の、何らかの作為を感じるところである。


謀反前の藤原仲麻呂の名前がある(大伴家持を左遷した当人でもある)のが、関係しているのかもしれない。


秦忌寸朝元は、遣唐使として入唐した釈弁生の子、母は唐の人。自身も遣唐使として入唐した。漢詩は得意としたが、和歌は苦手だとされている。麝香は珍奇で高価な香料。

橘諸兄のからかいは、遣唐使の秦忌寸朝元(唐土産で所持していたかもしれない)への救いのようなもの。

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