第1187話天平十八年の正月(1)降る雪の 白髪までに 大君に
天平十八年の正月、白雪多く零(ふ)り、地に積むこと数寸なりき。
時に、左大臣橘卿、大納言藤原豊成朝臣及び諸王諸臣たちを率て太上天皇の御在所に参入り、仕へまつりて雪を掃ひき。ここに詔を降して、大臣参議并せて諸王は、大殿の上に侍せしめ、諸卿大夫は、南の細殿に侍せしめて、すなはち酒を賜ひ肆宴(しえん)したまひき。勅して曰はく、「汝ら諸王卿たち、いささかにこの雪を賦して、おのおのもその歌を奏せ」とのりたまふ。
左大臣橘宿祢の詔に応へし歌一首
降る雪の 白髪までに 大君に 仕へ奉れば 貴くもあるか
(巻17-3922)
天平十八年(741)の正月に、白雪が多く降り、地に数寸も積もった。
その時に、左大臣橘卿(橘諸兄)は、大納言藤原豊成朝臣及び諸王や諸臣たちを引き連れて、太上天皇(元正天皇)の御在所に参上し、雪かきのご奉仕を行った。
そこで太上天皇は、詔を下して、大臣参議とて諸王は大殿の上に、諸卿大夫は、南の細殿に侍らせて、酒を下され、御宴を開催なされた。
そして、「あなたがた、諸王や卿達は、まず目の前の雪を題として、各々に歌を詠んで奉れ」との勅が下った。
左大臣橘宿祢(橘諸兄)が詔に応えた歌一首
降り続く白雪が積もり続けるように、私の髪も白くなるまで、大君にお仕えできるとならば、実に尊いこととなるでしょう。
※天平十八年の正月は平城京遷都後、初めての正月。
雪が降り積もった時の、酒宴の歌になる。
めでたさを歌う賀歌の典型的な型の一つである。
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