第1093話中臣朝臣宅守、狭野弟上娘子と贈答する歌(8)

命あらば 逢ふこともあらむ 我がゆゑに はだな思ひそ 命だに経ば

                         (巻15-3745)

※はだな思ひそ:そんなに思いつめないでください。


人の植うる 田は植ゑまさず 今さらに 国別れして 我はいかにせむ

                         (巻15-3746)

我がやどの 松の葉見つつ 我れ待たむ 早帰りませ 恋ひ死なぬとに

                         (巻14-3747)


生きてさえいれば、逢えることもあると思うのです。私の事で、そんなに思いつめないでください。命だけは落とさないように。


世間の人は田植えをしておりますが、それもなさらずに、今は別々の国に住むことになってしまいました。私は、どうしたらよいのでしょうか。


私の家の松の葉を見ながら、私も待つといたしましょう、早く帰って来てください、私が恋焦がれて死んでしまう前に。


これは、狭野弟上娘子の返歌。(全九首ある)

どれも、心をそのまま詠み、胸を打つ。

二首目の、「田植えをどうしたらいいのか」は、現実的な不安。

狭野弟上娘子は、皇太子の蔵の管理に携わる下級女官だった。

当然、田んぼの作業などは、ほとんどわからない。

だから、他の家で田植えを始めたからといっても、途方に暮れてしまうのである。

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