第958話葦原の 瑞穂の国に 手向けすと

葦原の 瑞穂の国に 手向けすと

天降りましけむ 五百万 千万神の 

神代より 言ひ継ぎ来たる 神奈備の 三諸の山は 

春されば 春霞立ち 秋行けば 紅にほふ

神奈備の 三諸の神の 帯にせる

明日香の川の 水脈速み 生しため難き

石枕 苔むすまでに 新た夜の 幸く通はむ 事計り

夢に見せこそ 剣太刀 斎ひ祭れる 神にしませば

                    (巻13-3227) 

反歌

神奈備の 三諸の山に 斎ふ杉 思ひ過ぎめや 苔むすまでに

                    (巻13-3228)

斎串立て 神酒すゑ奉る 祝部が うずの玉かげ 見ればともしも

                    (巻13-3229)

※斎串:神前に立てる聖なる串。「串」は木の枝や竹で、神を招き下ろすもの。

※うずの玉かげ:「うず」は髪飾りにする木の枝や花。「玉かげ」はヒカゲノカズラの美称。



この原の瑞穂の国に、手向けをなされるために、天から降りられました、五百万千万神の神代の昔から、人々により言い伝えられて来た神奈備の三諸の山は、春が来れば麗しい春霞が立ち、秋になると紅に美しく輝きます。

この神奈備の三諸の神が帯とする明日香の川は、水の流れが速いので、苔が生えてもすぐ流されてしまいます。

その石枕に苔が生すほどの長い将来まで、毎夜幸せに通い続けられるような手段を夢にお示しください。

身を清めに清め、心の底から大切にお祭りをさせていただいている、神であらせられますので。


神奈備の三諸の山の奥深くに籠られている神の杉、その杉ではないのですが、私の気持ちも、消えて過ぎることはあり得ないのです。たとえ杉に苔が生すほどの年月を重ねたとしても。


斎串を立て、神酒を据え奉る神主の髪飾りのかずらを見ると、実にゆかしく思えるのです。


研究者の中には、新婚者の永遠を祈る祝歌とする人もいる。

三首とも、現代人では、実感がないけれど、これはこれで「当時の祝歌」として理解するのが妥当と思う。




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