万葉恋歌

第938話紫は 灰さすものぞ 海石榴市の

問答歌

紫は　灰さすものぞ　海石榴市の　八十の衢に　逢へる子や誰れ

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（巻12-3101）

たらちねの　母が呼ぶ名を　申さめど　道行く人を　誰と知りてか

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（巻12-3102）

紫染めには、椿の灰を加えるもの。

その海石榴市の八十の衢で出会ったあなたは、どなたでしょうか。

母が呼ぶ名前を教えてもかまいませんが、あなたは道でたまたま逢った人なのです。

あなたこそ、私にはどこのどなたか知りません。

それなのに、申し上げてよいものなのでしょうか。

歌垣で知られる海石榴市の八十の衢で偶然出会ったからと言って、簡単には名前を教えない、つまり求婚には応じない、そんな掛け合いの歌。

ただ、当時は、一回目の求婚は、女が断るならわしがあったらしい。