第496話水鳥の 鴨の羽色の 春山の

笠女郎の、大伴家持に贈りし歌一首


水鳥の 鴨の羽色の 春山の おほつかなくも 思ほゆるかも

                      (巻8-1451)

水に浮かぶ鳥の、鴨の羽の色が、春の山と同じにぼんやりと霞むように、あなたの私へのお気持ちも霞んでいるように思えてしまうのです。


鴨の羽の色と春の山の色合い、そして大伴家持の自分(笠女郎)に向ける気持ちは、全て同じ。ぼんやりと霞んでいる。


春を迎えながら、春の喜びはまるでない。

恋人に恋文を贈りながら、まるで不実を責めているような内容。

恋愛初期の歌ともされているけれど、この時点で悲恋を予感していたのかもしれない。


結局は、大伴家持は笠女郎の想いに応えることはなかった。

身分の差を気にしたのか、あるいは一時の気まぐれで遊んだだけなのか。

いずれにせよ、結末を知っているだけに、この歌に込めた笠女郎のわびしさ、悲しさが心にしみる。

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