第331話月を詠みき(5)
霜隠り すとにかあらむ ひさかたの 夜渡る月の 見えなく思へば
(巻7-1083)
山の端に いさよふ月を いつとかも 我が待ち居らむ 夜はふけにつつ
(巻7-1084)
妹があたり 我が袖振らむ 木の間より 出で来る月に 雲なたなびき
(巻7-1085)
靫掛くる 供の男 広き 大伴に 国栄えむと 月は照るらし
(巻7-1086)
霜が降るような寒さになるのでしょうか。夜を渡る月が見えないことから思いますと。
山の端で出るのをためらう月、そんなあてにならない貴方をいつと思いお待ちしたらよいのでしょうか。もう夜はすっかり更けてしまいましたのに。
あの子のいる里に向かって私は袖を振りたいと思うのです。それだから、木々の間から昇ってくる月を、雲はたなびいて隠してはいけません。
靫を着けて帝を支える伴の男が多い、この大伴の地で、ますます国が栄えて欲しいと、今宵の月は照り栄えているようです。
一首目は、山の端から出る月の光が見えないのを嘆く歌。
二首目も月を待つ歌になるけれど、男を待つ女の歌とも思われる。
三首目は、女の家を訪れてから帰る時の男の歌、二首目の女の歌を受けて女の家に訪れ、帰りに名残を惜しむ。
四首目は、「月を詠みき」全てを締めくくる歌。おそらく大伴家の月の宴で歌われたもの。場所は大伴家の発祥の地の現在大阪市から堺市までの海沿いの地。
「月を詠みき」十八首の最後は、大伴家の発祥地、現大阪市から堺市にかけての海沿いの地で詠まれたと言われている。
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