第134話 門部王の恋の歌

門部王かどへのおほきみの恋の歌一首


飫宇おうの海の 潮干の潟の 片恋に 思ひや行かむ 道の長道を

                       (巻4-536)

飫宇おうの海の引き潮の時に見える潟のように、片思いをしながら、貴方のところへの長い道のりを行こうと思う。


飫宇おうの海:島根県の中海。

※門部王:生年未詳~天平十七(745)。父母等は未詳。『新撰姓氏録』によれば敏達天皇の孫である百済王の後裔。天平11年(739)4月、大原真人を賜姓される。


「門部王が、出雲国の守に任ぜられていた時に、現地の娘を妻とした。

しかし、すぐに通わなくなってしまった。

年月を重ねて、また恋心が復活したようで、すぐにこの歌を作って贈った」

右註には、このように書かれている。



この歌が詠まれたのは養老末年(723)頃、出雲守として赴任していた時期のようだ。

門部王は、通い始めてすぐに、すぐにその娘から愛情が途切れたのか、あるいは別の娘を好きになってしまったのか、通わなくなってしまった。

しかし、年月を隔てて、また思い出して、今は片思いかもしれないけれど、長い道のりを行こうと思う。



都から来た名門権力者の身勝手と言えば、その通り。

そんな人に振り回される女としては、たまったものではなかったと思う。


尚、国司が地元の娘を娶って妻妾とする例が多かったけれど、天平16年(744)10月14日の条により禁止されている。






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