エピローグ

幸せを待つティータイム

 時は動く。

 時は巡る。



 時は……流れ続ける。




 🧩🧩


 月が光を放つ夜。

 日記を閉じ、机から離れた彼は窓を開け『満月か』と呟いた。冷たさが滲む秋の風。近づいてくる冬を感じながら、彼は月に住む親しい仲間達に想いを馳せる。


 彼が眠りに包まれる夜、仲間達は夢の中にやって来る。黒うさぎと白うさぎと灰色のうさぎ。


『モカ、ミント、ルキア』


 彼が声をかけるとうさぎ達は嬉しそうに跳ねる。紺碧の宇宙そらに光を放つ金色の草原で。

 眠りから覚めるたびに彼は思う。

 今日もまた、この世界に魔法をかけていこう。みんなと一緒に……と。




 日記の最後に書いた友人への手紙。高校卒業と同時に旅だった校則違反の転校生。友人が今何処にいるのか、仲間達は知っているかもしれない。だが彼は何も聞かず友人の幸せを願い続けていた。


【もう一度君に会えたら。何も変わらない君を見つけたら、僕達はあの頃のように君に笑いかけるだろう。何も変わらない君が、物語に触れ誰かに語り継いでくれるなら、僕達の想いは生き続ける。無限の風に流れて……いつまでも】


 終わらない命を持つ友人。

 彼は願う。

 友人が日記をめくり、手紙を読んでくれる日が来ることを。




 本棚に並ぶ絵本達。

 彼の祖母が描いたものと、彼が彼女とともに描き続けたもの。皺が刻まれた自身の手を見つめ彼は微笑む。


 遠のいた日々の中、彼女とともに生みだした最初の物語。それは原稿用紙とスケッチ画のまま彼のそばにある。

 彼が描いた物語達の原点。


 ドアが開き彼女が入ってきた。

 白くなった髪と皺が刻まれた顔。

 だが彼に向けられた笑顔は、小さな頃から少しも変わらない。トレイに乗せられたふたつのティーカップ。寄り添うように置かれたマカロンが呼び寄せる懐かしい記憶。


「昨日のことのようだよ。小さな頃のように、君が僕を呼んだ日が。君が挿絵を描き終えて、みんなが再び集まった日。モカはミントの力で人間ひとの姿になって、舌ったらずな声で君の背中を押したんだ。モカに勇気づけられるまま君は『由希君』って呼んだんだよ』


 彼女の顔がほのかに赤く染まっていく。テーブルにティーカップを並べ、椅子に座った彼女を見ながら彼は照れたように笑う。

 彼を困らせていた黒うさぎは、彼と一緒に成長し彼女の背中を押した。彼の脳裏をよぎる、リュックサックを背負った黒うさぎの残像。あの日から過ぎた長い日々が、色鮮やかな色味を帯びて彼の中を巡る。


「姉さんが引き継いだ店は大盛況だったね。大学を卒業するなりミントに弟子入りして……姉さんってば」

「あのお店から生まれたスイーツが、何処のお店でも売られるようになったのよね。お義姉さんの発想力、私もためになることばかりだった」

「和也は今も冒険を計画中らしい。楽しむことに年齢は関係ないってね。……僕達もまた新しい絵本を描こうか。そうだ、彼らとも話し合ってみよう。楽しいことが大好きな月の住人達。彼らと一緒に、喜びが続く世界を描きだすんだ」


 巡る記憶の中で彼を温める、両親がくれた名前の由来。き交う繋がりと、雪のように真っ白な心。

《由希》という名前に秘められた意味を、噛み締めるように彼はうなづいた。


「……さぁ、お茶にしよう。彼らも月でお茶を飲むかもしれないね。眠る前のお茶の時間……明日もまた、幸せであるように」


 ふたりは顔を見合わせ微笑みあった。




 🍬🍬



 

 出会いと幸せを呼び寄せる奇跡の地球ほし



 ときめきときらめきの中で、みんなの想いが輝き続ける。



 みんなに会えてボクは幸せ。

 みんなの想いは宇宙そらに溶けて、鮮やかな世界を作りだしていく。





 ——黒うさぎ・モカより。

 ありがとうのメッセージ——









《幸せ色のマカロン、回転パズルとティータイム・完》

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幸せ色のマカロン、回転パズルとティータイム 月野璃子 @myu2568

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