第39話

 ***


 夕焼けに染まる机の上。

 ハンカチの上で眠っているぷち王様を見ながら健太君は考える。


 ——王様は何処から来たんだろ。何をしにこの世界に来たのかな?


「聞いてみよっと。王様起きて? 起きてってば、王様‼︎」


 ぷち王様はごろーんと寝返りぐっすりすやすや。『もうっ、王様ってば‼︎』とぷっくり健太君。モコモコ金色の髭をひっぱって……


「いてててっ‼︎ 何をするのだ庶民め‼︎」

「起きてくれないんだもん‼︎ ケーキを食べるなり寝ちゃうなんて」

「まったく……私の大事な髭を」


 ぷち王様はモコモコ金色の髭をせっせと手直し。ぷっくりまぁるいぷち王様は、どこから見てもモンブランケーキにそっくり。


「ねぇ王様、この世界に何しに来たの?」

「愚問だな庶民、探し物に決まっておるだろう」

「探し物?」

「うむ。庶民達の笑顔を見るのが私の楽しみでな、皆がびっくりする何かを探しに来たのだよ」


 ぷち王様はニコニコ笑顔。

 健太君は思う。

 ケーキみたいなのにケーキを知らない変な王様。だけど心の中は優しさでいっぱいなんだって。


「それで、何か見つけたの?」

「うむ。け〜きは素晴らしいぞ。私が作ったけ〜きを、皆は食べてくれるだろうか。庶民よ、私にけ〜きの作り方を教えるのだ」

「そんなの知らないよ?」

「なんだと‼︎ 知らないとは何事だ‼︎」

「だって、ママが買ってくれるのを食べてるだけだし」


 プンプン怒りのぷち王様を前に『あっ』と声を上げた健太君。ママが時々作ってくれるホットケーキ。


「そうだ王様、ホットケーキはどうだろう。ママに焼いてもらえば、王様も覚えられるかも」

「ほっとけ〜き? なんだそれは?」

「あったかいケーキ。絶対美味しいんだから‼︎」


 ***


 翌日の午後。

 健太君はママと一緒に台所に立っている。健太君が持つ巾着袋に隠れているぷち王様。

 ママの手元のボールを見ると、トロトロに混ざった材料が見える。フライパンに落ちた材料が、ジュッと音を立て甘い匂いが漂いだした。


「ママ、いい匂い。とっても美味しそう」

「ふふっ。心を込めて焼いてるんだもの。美味しいわよ」


 ママの笑顔を見ながら健太君は思う。


 ——料理って不思議だな。魔法みたい……ううん、料理は魔法なんだ。トロトロだったものが膨れてケーキになっていく。ママの優しさに包まれて、お肉も野菜も美味しくなる魔法にかかっちゃう。切ったり刻んだりして、広がっていく美味しい魔法。


 ホットケーキの匂いに包まれて、幸せそうなぷち王様と健太君を包むドキドキとワクワク。


 ——そうだ、自由研究。ママが作ってくれる料理にしよう。食べることがもっと楽しくなるね。大嫌いな人参も食べれるようになっちゃったりして。う〜ん……それはないかな?


 ***


 ぷち王様がホットケーキミックスをお土産に、国に帰ってから数日後。

 健太君が見たのはホットケーキを焼くぷち王様と、ぷち王様を囲うように集まる人達の夢。ホットケーキを食べた女の子の、満面の笑顔を前にぷち王様も笑っている。

 小人達の世界を包む風と、青い空が健太君の世界にも繋がっている奇跡。

 奇跡は今日も続いている」



 くるみが読み終えて店の中に訪れた沈黙。緊張に包まれたまま、由希は皆を見回し『どうだったかな』と呟いた。


「夢を追いかける最初の物語。知られるのがまだ……恥ずかしいけど」

「よかったよ由希ちゃん。これからもいっぱい読ませてね」


 春奈の声が温もりを帯びて由希の中に浸透していく。『友達だから言えることだけど』と和也。


「絵本としてはちょっと長いかな。だけど夢を追っかけてる途中……これからこれから‼︎」

「和也をモデルに何か書いてみようかな。冒険家を目指す男の子と誰も知らない世界の物語。ルキアが教えてくれることが参考になるかも」

「どんどん書けよ由希。夢を叶えた俺の、本当の冒険を絵本にしてもいいんだぜ?」


 和也を見ながら由希は思う。遠い未来……冒険家となった和也の笑顔が、誰かの背中を押し新たな夢を生むかもしれない。自身の夢もまた、誰かの背中を押すものであったらいいと。


「何やってんの松宮君。……ほんと気が利かないんだから」


 彩音がジュースを持って近づいてくる。差し出されたジュースを受け取り、飲もうとした由希を前に『ちょっと‼︎』と彩音は声を荒げた。


「松宮君が飲んでどうするの‼︎ 物語を読んだくるみに渡しなさ」

「ニャ〜オ」


 猫の鳴き声に彩音は顔をひきつらせる。由希が顔をこわばらせ、皆がざわめく中ブン太が笑いだした。


「宮野は捻くれてるな。馬鹿宮の分も、ジュースを渡したかったくせに」

「ちょっと、何言って」

「ニャ〜オ」


 彩音の顔が青くなっていく。猫が何処にいるのか……皆が探し始めた中ミントは微笑む。


「なるほど、木野瀬君はやはり人情家ですね」

「親父さんは黙っとけよ。……馬鹿宮と物語を作って、楽しそうな佐藤を見るのが嬉しいんだろ? 佐藤を喜ばせてくれるお礼。ジュースくらい渡せばいいじゃんか」

「な……何よ、私のことわかったような言い方」

「ニャ〜オ‼︎」


 突然現れた猫に、彩音が悲鳴をあげかけた瞬間とき。虹色の光に包まれた猫がぬいぐるみに姿を変えた。『にゃ〜お』と可愛らしく鳴くぬいぐるみを拾いながら、ブン太は呆れたような目でミントを見る。


「由希君を応援しましょう。僕達が遊ぶこの世界で夢と幸せは回転し続ける。遊びましょう……喜びと優しさというパズルを散りばめながら……いつまでも」


 皆がうなづく中、ミントに詰め寄るココとブン太。ふたりの迫力を前に、あとずさるルキアの背後に立った由希。


「遊んでばかりいないで、仕事してくださいミント様っ‼︎」

「ルナを元に戻せ、クソ親父‼︎」

「にゃ〜お‼︎」

「……由希、ミント様を助けたほうがいいのかな?」

「ミントもたまには説教されなきゃな。それより、和也達と色々話そうよ……ルキア」


 由希とルキアを追うように、モカはゆっくりと歩きくるみに近づいていく。真っ赤な顔で見上げると、くるみの嬉しそうな笑顔が見えた。


「くるみちゃん。由希君の物語の絵……いっぱい描くの?」

「うん。モカちゃんに1番に見せてあげるね。そうだ、モカちゃんの絵も描いてあげる」






 笑顔と不思議に包まれた1日は、松宮由希にとって忘れられないものになるだろう。



 喜びと悲しみが交差する世界の中で、未来を待つ彼の夢は膨らみ続けていく。そして……

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