紡がれる繋がりと動きだす物語

第31話

 月曜の朝。

 晴れた空を見上げながら佐藤と話せるかを考える。

 佐藤のそばには宮野彩音。佐藤を見ると彩音の鋭い視線が返ってきて、『近くに来るな』と無言の返答がやって来る。

 僕のそばで困惑気味な和也と、面白そうに僕を見る木野瀬ブン太。

 佐藤と席が近い窓際で、木野瀬が本を読みだす休み時間。木野瀬に話しかける素ぶりで佐藤に近づくも、彩音の凄みに負ける日々が続いている。

 僕と木野瀬が話すことを、戸惑い気味に見ていた和也だったが、ふて寝事件以来木野瀬が騒ぎを起こすことはなく、和也もクラスの連中も少しずつ木野瀬と馴染んでいった。

 髪を染めていることと、アクセサリーを身につけた校則違反は相変わらずで、雅先生の小言は続いているけれど。

 木野瀬が読むのは歴史の本ばかり。『歴史が好きなのか?』と聞いてみると』僕が知っているものの、脚色っぷりが滑稽だな』と皮肉めいた笑みを浮かべた。死なない存在である木野瀬は、どれだけの出会いと別れを繰り返してきたのだろう。これから先……僕が歳を取っても、木野瀬は若い姿のままなのか。

 歳を取ることと死ぬことが叶わないことは、どれだけの絶望なのか僕には想像もつかない。


 人通りが少ない商店街の中、見えてきたまかろんはうす。ミントは今何をしてるんだろう。朝食を食べ終えて、ココとお店の話をしてるのかな。

 ルキアは……目を覚ましたんだろうか。

 佐藤と話せるようになったら、まかろんはうすでぷち王様のことを話し合いたい。佐藤が考えたぷち王様をどんな世界で活躍させようか。ぷち王様と仲良くなるのはどんな人物にしよう。

 ぷち王様の物語が生まれたら、姉貴もまかろんはうすに呼んでみようかな。

 まかろんはうすが姉貴にとって、佐藤と再会する奇跡のような場所になるなんて……それにしても、昨日の姉貴ときたら。

 飲食店に入り、僕が頼んだのはハンバーグ定食だった。姉貴が頼んだものは、シーフードドリアとパンケーキ。アップルパイとアイスクリーム。


『病院に運ばれたのが、私の大きな転機になったみたいなの。食べたくて食べてるのにお腹を壊すなんて、がんばってる胃袋が可哀想じゃない? だからもうお腹を壊さないようにと、日々の努力を続けての今があるのよ。由希ちゃんってば呆れてないでさ、このパンケーキ食べてみてよ』


 満面の笑みでパンケーキを薦めながら、ハンバーグ定食にそえられたサラダを食べた姉貴。思いだすだけで胸焼けがする。


「……モカの奴、どうしてるのかな」


 モカの名前を、佐藤に教えられないまま過ぎた数日。佐藤はモカをなんて呼んでるんだろう。

 あんなでも魔法使いだし、名前を魔法で佐藤に伝えることが出来ないのかな。


「まったく、めんどうなうさぎだな」


 過去から帰って目を覚ましてから、モカは話しかけてこない。佐藤と話せてないからモカがどうしてるのかわからないままだ。

 ミントと月の住人達がモカを見守ってるだろうけど、舌ったらずな声がいきなり聞こえなくなるのもなんだか気味が悪い。


「松宮っ‼︎」

「おはよう、和也」


 和也と肩を並べ歩きだした。僕を見る和也の目が不安げなのは、僕と佐藤のことを考えてるからかな。

 佐藤と話せてないから、和也にはまだ何も話せていない。佐藤と何があったのか……これから僕がどうしていきたいのかを。


「松宮……少し考えてみたんだけど、佐藤に電話してみれば?」

「電話?」

「うん、雅先生が配ってくれてるじゃん。なんかあった時の連絡用のプリントが。解決したら……佐藤から宮野に説明してもらうのがいいと思うけど」


 電話でなら問題も邪魔もなく話が出来る。だけど電話越しじゃなく佐藤を前に話さなきゃ、佐藤にも彩音にも伝わるものがないんじゃないかな。


「どうだ? 松宮」

「ごめん、佐藤に直接話したいって思ってる」

「だよな。わりい、余計なこと言って」

「悪いのは僕だ。和也にまで嫌な思いさせてるね」


 顔を見合わせて笑いあった。

 笑いながら思う。

 彩音が僕を前に苛立っている姿を、佐藤はどんな気持ちで見てるんだろう。

 辛いだろうな……自分のことで友達が苛立ってるなんて。


「ああ由希君‼︎ 待ってくださいっ‼︎」


 まかろんはうすを通り過ぎてから、僕を呼び止める声が商店街に響いた。振り向くとミントが立っている。シルク生地の真っ白なパジャマ姿。

 起きたばかりだろうか。

 眠そうな赤い目とボサボサの長い髪。


「誰だよ、松宮」

「八重婆ちゃんの知り合いなんだ。僕も知り合ったばかりなんだけど」


 近づいてきたミントが頭を下げ、和也も頭を下げた。ボサボサの髪を前に恥ずかしさに包まれる僕。


「由希君、息子がちょっと困ったことになっていましてね」

「モ……」


 モカの名前を言いかけて口をつぐむ。

 和也の前でモカのことを切り出された気まずさ。和也に隠しごとなんて出来ないけど、全部を話すのは佐藤が先なんだ。


「和也、ごめん。ちょっと待ってて」


 ミントの腕を掴み和也から離れ、まかろんはうすの入り口に立った。


「なんだよミント。モカがどうしたって?」

「それがですね。……息子は恥ずかしがり屋というか年頃というか」

「なんだって?」

「ゲージに入れられました。少女にとってモカはペットですから、そこまではいいのです。ただ息子はトイレ事情を恥ずかしがっていてですね。与えられる野菜も果物も……食べていないのです」

「……トイレ? それじゃあ、モカが何も言ってこないのって」

「お腹が空きすぎて、話しかける元気がないのかもしれません。僕がエネルギーを送っているので、命に別状はないのですが……少女が悩んでいます。どうして何も食べてくれないのだろうと」


 僕と彩音のことで悩んでるのに、モカのことでも頭を悩ませてるのか。モカの悩みもわからなくはないけど……しょうもないことで佐藤を悩ませやがって。

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