なにかがおかしい

 わたしは試練の聖殿に下ろされ、みんなに電話で連絡すると、すぐに迎えが来た。

 そして聖王国の城で、わたしは中隊長さんたちと再会する。

 みんなが私の無事を喜んでいた。

 そして中隊長さんが わたしの手を取り微笑む。

「君が無事で本当に良かった」

 わたしは頬をポッと赤くして、

「中隊長さん」

 と笑顔を返した。

 うーん、良い雰囲気。

 というところに、

「マイシスター! 無事でよかったでござるぅー!」

 兄貴が泣きわめきながら抱きついてきた。

「うっとうしいわね! 離れなさいよ!」



 わたしは賢姫さまに女神の言葉を伝えると、賢姫さまは首を傾げる。

「わたくしが大魔王を倒す方法を知っている? 女神が そう お告げしたのですか?」

「一応 そうなんですけど。賢姫さま、とにかくみんなからの報告を元に対策を考えてください。頭脳では貴女が世界トップなのは間違いないんですから」

「わかりました。報告を分析して対策を練りましょう。

 とりあえず貴女は、今日の所はお休みになられてください。色々あって疲れているでしょう。こちらからの報告は明日と言うことで」

「わかりました」



 わたしは用意された部屋のベッドで横になると、大魔王のことを考えて始めた。

 思い出すだけで気持ち悪くなる。

 絶対的な力を持った究極のナルシスト。

 あそこまで自分のことだけしか愛さないなんて、理解の範疇を遙かに超えている。

 そりゃ確かに超が付くほど美人だけど、それを言ったら隠密将軍だって同じ顔だし、綺麗さで言えば 賢姫さまや聖姫さまだって負けていない。

 もちろん わたしもよ。

 顔だけで王子の婚約者になったくらいなんだから。

 あの男、自分の顔しか見てなくて、他の人の顔 見てないんじゃないかって気がしてきた。

 もしくは自分を過大評価して、他人を過小評価しているとか。

 自分だけが愛される存在だと信じて疑わない。

 自分を愛することが唯一の真実の愛なんて発言、どういう神経してたら言えるのよ。

 全然 愛されずに育ったのか、それとも過剰に甘やかされて育ったのか。

 それにしたって、あそこまで度し難いナルシストになるもんなの。

 ……ん?

「……あれ?」

 わたしは大魔王の発言などを思い出している内に、奇妙な違和感が生じた。

 身体を起き上がらせて考えた。

 なにかがおかしい。

 でも なにがおかしいんだろう?

 わたしは思考を巡らせた。

「……まさか」

 その答えは今までわたしが経験したことの中にあった。

「そういうことなのね」

 わたしは答えを見つけることができた。



 悪友は好奇心で身を乗り出してきた。

「なになに? それってなんなの?」

「今はまだ待って。最後辺りに話すから」

「もったいぶってないで教えてよ」

「ここでいきなり言っちゃうとつまんないから。少しは伏線を入れさせてよ」



 次の日、作戦会議が開かれた。

 メンバーは賢姫さまや聖姫さま、他の王さま達。

 そして兄貴や中隊長さんたち。

 ツインメスゴリラや元女騎士隊長など、北極大陸上陸メンバーだった人たち。

 さらに大魔道士さまに、魔兵将くんのお父さんと、オッサンのお父さんのマッチョジジイまでも。

 とにかく今までのメンバー全員が集まった。

 次の作戦のために、集められるだけの戦力を集めたのだ。



 賢姫さまが最初に発言する。

「大魔王を倒す方法。そして大魔宮殿の結界など、その対策を見つけました。

 それは大魔封陣の魔法ですわ。

 大魔宮殿を中心にするように、五つの小さな魔方陣を設置し、巨大な魔方陣を造ることによって、その内部の魔の力を封じるというもの。

 これによって大魔宮殿の結界を解除し、そして大魔王の力を大きく減らすことができますわ。

 大魔王は片手で勇者さまたちの攻撃を防御していたとのことですが、この仕掛けは単純です。いくつもの防御魔法を片手に集約していただけです。

 つまり単純に力で押し切っていただけなのですわ。

 しかし、それを行っている間は魔力を消耗し続ける。力尽きれば終わりという、言ってしまえば ハッタリに近い物だったのです。

 もちろん脅威であることには変わりありません。

 ですが それも、大魔封陣の魔法によって使用不能状態にすることも可能。

 これによって大魔王攻略が可能となります」

 魔兵将くんのお父さんも、

「我々 魔族にもこれと同じような魔方陣があります。それは聖封魔方陣。

 以前、獣士将軍が使用したものです。これに勇者様たちは苦戦を強いられました。それと同じことを、今度は勇者様たちがするのです」

「おお……」

 わたしは感嘆の声を上げた。

 さすがは賢姫さま。

 イニシャル・エス・エムだけど、頭脳では世界一なだけはある。

「ですが……」

 賢姫さまは言い淀んで、

「一つ問題があります。この大魔封陣は破邪の戦士が揃っていなくてはならないのです。

 この魔法は破邪の戦士の究極奥義の一つ。

 五柱の破壊神、それぞれの力を持つ者たちが必要。一人でも欠けると、使うことができないのですわ」

 わたしは状況を答える。

「ということは、一人足りない」

 童貞オタク兄貴は獣神。

 中隊長さんは竜神。

 姫騎士さんは戦神。

 魔兵将くんは闘神。

 魔神の力を持っている人がいない。

「じゃあ、その人を今から探しだすか、それとも誰かが試練の聖殿に挑戦しなくてはいけないと言うことですか?」

「そういうことになりますわ」

 そんなの不可能に近い。

 試練をクリアするのに、兄貴は十七回も失敗しているのだ。

 中隊長さんは一回で成功したけど、それだって元々竜神の力を持っていたから。

「試練に成功するなんて無茶もいいとこですよ。それに魔神の力を授かってる人も見つかるはずが……」

 そこにオッサンのお父さんであるマッチョジジイが発言した。

「そんなことする必要はねえ。魔神の力を持った奴ならここにいる」

「誰ですか?」

「俺だ」

 ……

「え?!」

 わたしは理解が追いつかなかった。

 オッサンが説明する。

「父さんを呼んだのは僕です。父さんはかつて魔神から力を授かった破邪の戦士だったんです」



 続く……

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