第114話君の隣で見る景色
「……痛いじゃないか」
俯せに倒れていた護が、ムクリと起き上がる。
やっぱり死なないのかもしれない。
致命傷を与えたと思っていたデュークさんが、まさかと驚いている。
それを見るや、レイが私を懐に抱き寄せて魔力を天井に勢いよくぶつけた。
彼の魔力は霧状だったり紐のようだったり、かと思えば鋭く剣のように実体化したりするが、今回は物質を破壊することを目的にしていた。
轟音と共に天井に穴が開き、月光が注ぐ。
しゅるり、と護の体を魔力で縛ると、レイの足元も魔力で浮く。
私を抱いたまま、穴から地上へと飛び出したレイは、魔力で引っ張り出した護を地面に叩きつけた。
神殿の近くの草むらに出た私の耳に、歓声が聴こえた。
小高い丘に位置する神殿の麓、アテナリアの王宮と周辺から人々の喜びに沸く声がした。
「どうやら人質が解放されて、王宮の制圧も完了したみたいだな」
レイが耳を澄まして、地面に手を付く護を見下ろす。
「観念して死ぬか?」
剣を突きつけて冷ややかに問うレイに、護が急に笑い出す。
「はは、だから何だってんの?別にどうなっても興味が無いよ。それに」
勇者の剣を持ち替えて、護がレイめがけて剣を放った。
難なく避けたら、護が呼んだ。
「剣よ!」
くるりと弧を描き、声に反応した剣が彼の方へと戻ろうとする。
そして、レイの背中に突き刺さった。
「ぐっ!」
「きゃあ!」
膝を付いたレイの背に治癒を掛けようとしたら、手に剣を掴んだ護が素早く振りかぶる。
「縛れ!」
拘束の術を掛けたら、レイが護の足を更に魔力で縛り上げた。
護がそれを外している間に、私は自分とレイに結界の詠唱を唱えた。
「僕はね、この世界がどうなろうが興味ない。興味があるのは君達にかな」
レイの背中の傷を治癒していたら、彼が息を切らしていることに気付いた。
「息上がってるね、神殿の地下で無理して魔力を大量に使ったから疲れたんでしょ?それじゃあ、そろそろいいかな?」
「な、に?」
トントンと軽く刀身の平たい部分で肩を叩いて、護がこともなげに言った。
「君はどこまで切り刻んだら死ぬの?実験したいな」
ぎりっと歯を噛み締めて睨み付けるレイを、護は挑発して面白がる。
「ネーヴェに頼んで君を呼び寄せたのは、元の世界に帰る為だけど、単純に興味があったからだよ。魔王は寿命以外では、なかなか死ねないんだってね?僕よりもしぶといか気になってさ」
気味の悪い笑みを浮かべるのに嫌悪感が募る。どうして彼が勇者の力を持っているのか不思議だ。
「君の妹も父親も呆気無くてつまらなかったからね。だから君が肉塊になっても生きてるか知りたいし、そうなった時の深紅ちゃんにも興味があるな。昔妹を目の前で殺されたネーデルファウストのように、うちひしがれた顔を」
「黙れ!!」
カッとなったレイが、護に高速で魔力を撃ち込む。
「メーベルはギルと婚約していた!これからだったのに!それなのに!」
「はは、知らないよ。まだこんな力あるんだ」
レイの攻撃を剣で弾きながら、護は感心したように言う。
「レイ!」
冷静さを欠いているのが心配で、結界の術を彼に施す。
「レティ、本当は俺はこいつをもう一度呼び寄せたかったのかもしれない。いくら白亜の術で強制されたからといって、望んでいなければ抵抗できたはずだ」
苦くレイが言葉を吐いた。
「復讐したいと、ずっと願っていた」
護に冷たい視線を向けたままのレイの表情に、様々な感情がひしめいている。怒り憎しみ殺意、悲しみと復讐を果たせる喜び。
「………レイ」
彼の心の奥底を垣間見て、言葉を失う。
護の一撃で、結界が霧散する。続いて繰り出された剣をレイの剣が受け止める。鍔迫り合いになったところに、鋭い刀となった魔力が背後から護に襲いかかる。
肩を抉られた護が、お返しとばかりにレイの肩を抉る。
「縛れ!」
肩を押さえた護に拘束の術を掛けて、レイに治癒と魔力増強を施す。無理やりの増強は体に負担を掛けるが、切り刻まれるよりはマシなはずだ。
「あ……」
目眩がして、ふらつくのを耐える。私の方が消耗していたらしい。
「レティ!」
「………大丈夫」
なんとか足を踏ん張ったら、後ろから肩を支えられた。
「あ、デュークさん」
「嬢ちゃん、休んでな」
そう言うと、レイに助太刀しに行くデュークさん。
朗々と長い詠唱を唱える声に振り向けば、白亜様が立っていた。その旋律に動揺する。弱った彼女には強すぎる術だ。
「いけない!」
私が止めに入る間もなく、護を見据えた白亜様が唱え終わる。
「その身の時を止めよ!封印!」
「ムダだね!」
強力な封印術を、勇者の剣が阻む。空気が振動し風圧で護の周りにいた者が吹き飛ばされる。
倒れる白亜様を支えようとして、共に草原に膝を付く。
「それは魔族にしか効かないんじゃなかった?チートな勇者に効くわけないだろ」
「く……」
唇を噛み締める彼女に余力があるのを見ると、結界術の失敗は生命力を削らずに、結果的に彼女を救ったのを感じて安心する。
「護は、私が呼んだの。だから私が止めないと」
悔しげに白亜様が呻く。斬り結ぶレイに、また傷が増えて血が流れた。
その姿を見つめ、白亜様に声を掛ける。
「白亜様、私に攻撃術を教えて下さい。私苦手で」
いきなりの言葉に驚く彼女の手をそっと握る。
「大丈夫です。白亜様ならきっともう…」
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