第105話君が愛した悪魔の僕は2

 アテナリア郊外の転送魔法陣から現れた私達は、明るい月を見上げた。




 四頭の竜に乗って潜入するメンバーは、バランスを考えて自然に決まった、というのも後からたった一人の勇者デュークさんという味方が合流したからだ。




 人の良いおじさん、なんだかお父さんポジション定着だよ。




「俺も娘がいるからな。住み良い世界にしなきゃあな」


「好きにしろ」




 レイも、人間の中では彼のこと気に入ってるんじゃないかな。気を許した顔してる。






 〈狂った勇者討伐メンバー〉




 魔王ネーデルファウスト………通称レイ。またの名を変態ワンコ、クロ




 聖女深紅…………魔王の妃レティシア。またの名をモフに魅了された変人




 神官ネーヴェ………18年前の勇者パーティーメンバー。白亜、エドウィン、護と共に魔王封印に関わる。またの名を真面目な人




 勇者デューク………優しいおじさん。元魔物ハンター。またの名を最もまともな人




 竜に騎乗する私達の後ろから転送魔法陣でやって来た翡翠や橙聖女候補達や神官候補、それにディメテル国の応援として一部の騎士が連なる。




 特殊な術や剣術に優れた人達だけど、それでも100人にも満たない人数で大丈夫だろうか。




「しばし待て」




 今にも駆け出しそうな人もいる中、レイは一言発して、腕を横にして制止を掛ける。




「何です?」




 ネーヴェ様が怪訝な表情をすれば、彼を見もせずにレイは何かを待つ素振りをする。




 私は月に雲が掛かるのを、レイの隣で見ていた。




「怖いか?」




 こちらに向いた彼に聞かれて、首を傾げる。




「あれ?そういえばこういう時って怖いのが普通だっけ?」




 これからどうなるか不安はある。


 でも怖いかなんて聞かれても、そんな自覚は無かった。




 むしろ、高揚感を覚えた。聖女として、この力を使える時がきたという誇らしい気持ち。きっと翡翠は、この気持ちに憧れてたんだなあ。




 何より大きいのは……




「怖くないよ。だってレイがいるじゃない?」




 笑い掛けると、レイは少し力の抜けた表情をした。




「ああ、レティは俺に初めて会った時も、今のような顔をしていた」


「あの時は、怖いなんてことなくて、ただただクロ君があまりに可愛くて周りが目に入らないぐらいだったよ。もうクロが欲しくて欲しくて、うへへ」


「はう、俺のこと、そんなにも」




「ペットにしたくてたまんなかったよ、きひひ」


「そうか……そうだった」




 尻尾がだらりとなったレイ君、いやいや、君ペットからかなりの格上げだよ!




「レイ、私あの時レイに会えて本当に良かったよ」


「ああ、そうだな」




 …………いかん、フラグ立ってる。こういう時にこんな話はまずい。


 本で読んだことあるんだよ、互いの気持ちを確認したり、この戦いが終わったら結婚するんだとか故郷へ帰るとか、急に言い出したら……その後………




「あ、なんか怖くなってきた」


「なぜだ、おい?」




 訳のわからない顔のレイ君だったが、ぴくりと反応して魔法陣に目を向けた。




「来たか」


「あ、ギルさん!ん?」




 出るわ出るわ、下級中級魔族御一行を引き連れたギル兄が機嫌悪く姿を現した。




「ご命令通りに参上しました」




 動物型の魔族の中に、思いがけず数十人の騎士のように武装した上級魔族もいて驚いた。


 ギル兄も顔は出しているけど、体には軽装型の鎧のような物を身に付けている。




 他の皆さんが、かなり驚いている。いや、びくついてる。




「俺の軍を、レティの為に貸し出す」




 あくまで、私の為を強調しているクロ様。魔王としての参加じゃないってことの意思表示なのはわかるよ。




「え、でも待って。レイ、魔王軍なんて存在したの?」




 私は企業秘密っぽいので、こそこそとレイの耳元で小声で聞いてみた。




「ああ、普段はいない。あちらの上級魔族の者達は、かつて俺の父と共に13人の聖女と戦った時の魔王軍にいた者達だ。今は暇を持て余して、街でパン屋とか雑貨屋を営んでいる。今回召集で来たのは、腕試しと暇潰し…………あとはボランティア精神だろう」




「久々に腕が鳴るな」


「何百年ぶりかな、こんなワクワク感」


「人間魔族皆平等、困った時は助け合いだぜ、人間達!」


「可愛いお妃様の為に、うちは頑張る!」


「心臓を捧げよ!死なないがな」




 ……………………楽しそうだ。しかも気さくで良いヒト達っぽい。




「………レイ、何か泣けてきた」


「感動したのか?」




 得意気なレイの顔が、やけに胸に突き刺さるようにイタイ。


 こんなこと、人間界にはお知らせできない。




「魔王軍と共に正面から行け。陽動は派手な方がいい」


「これは……感謝します。魔王様」




 ネーヴェ様が、驚きと喜びの表情をして言った。




「では行け!魔族達よ、人間は喰うなよ」




 レイが意地悪な号令をかけると、中級魔族達が人間達を無理やり背に乗せて走り出した。上級魔族のボランティアの方々は、凄い早さで走って行った。




 数頭の鳥型の中級魔族が、聖女候補や神官候補を乗せて宙を滑空する。




「……………………………ん?」




 あれ?


 潜入メンバーいらなくね?


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