第31話君がいるだけで5

 私が驚いてぼうっとしていたら、クロはどこかうっとりした表情に変わり、また唇を寄せようとした。




 はっとして、クロの顔を両手で押し返す。




「うぶっ!」


「ク、クロ、待て!」


「ちいっ」




 服従の術で私のペットのはずのクロ。待ての状態にはなったけれど、今盛大に舌打ち…したよね?




「クロ、お座り」




 ぶすっとして、渋々ベッドの上で胡座をかくので、「正座」を命じた。




「ウウウウ」




 唸りながら座り直すクロの前に、私も座る。




「……クロ君、ここはあかんと思いますが?」




 ここ、と自分の唇に触れて言うと、感触を思い出してクロから目を反らした。




 いかんよ、クロ君。端から見たら、これは犯罪かもしれぬ。




「クロ君、君は見た目は10歳なんだよ。私みたいなお姉さんにちゅうなんかしたらダメです。これはあかんです、未成年へのワイセツ罪で、私が捕まる、ううっ」


「は…?ワ、ワオン…」




 ぽかんとした顔で私を見つめるクロに、念を押す。私も動揺してるのか、方言が出てる。




「いい?クロ君。舐めてもいいけど、唇にちゅうはダメ。クロ君の唇は大人イケメンに成長してから、上級魔族の可愛い女の子の唇にちゅうする為にあるの」


「……ワ…ン?」




 私は一人頷いて、クロの目を見てしっかり言った。




「……クロ君、唇にちゅうは本当に好きになった子にしかしてはいけないの。私なんかと、軽い気持ちでしてはいけないよ」




 聞いているのかどうか、クロは難しい顔をして天井を仰ぎ見た。




「………………はあ」




 そして、深い溜め息を吐き出した。




 クロに説教していたら、なんだか不安な気持ちが軽くなって、私は反省したのか落ち込むクロの頬を撫でた。




「ふふ、よしよし」


「………ウウ」




 でも、嫌じゃなかったんだよね。


 キスして慰めてくれたんだろうし、言い過ぎたかな。




 そっぽを向いてるクロに、布団に手をついて近づく。




「ありがと、クロ、ん…」




 チュッ、とクロの頬にお返しにキスしておく。




「ふふふー、私のハジメテはクロだよ。何だか嬉しいな」




 フォローして笑ったら、頬を押さえたクロは、何かに耐えるように顔を真っ赤にして、布団に突っ伏した。




「ほら、ちゃんと布団に入って寝よう。クロ、おいで」




 呼ぶと、ズルズルと力無く這いながら私の隣に横になった。


 私に背を向けたクロのフサフサの尻尾が細かく揺れて、私のお腹や胸を擽る。


 誘惑に勝てずに、片手で尻尾を掴み、そのまま根元から先に動かすと、ピクピクと体を震わす。




 うーん、どんな感じなのかな。




 もう一度しようとすると、クロが慌てたように尻尾を前に持っていき、触らせないようにする。




「ごめん、嫌だったか…もうしないよ」






 クロの反応に、ちょっと楽しくなってきていた私だが、調子に乗りすぎたと思い黙って眠ることにする。




「おやすみ」




 ぴったりクロの背にくっついて、片手で尻尾ごとクロを抱くように回して目を閉じた。




「くうう……ツライ、ツライっ」




 絞り出すような、苦悶に満ちたクロの小さな呻き声が、ボソボソと聴こえた気がした。




 ……クロ、変なイヌ語の寝言。




 苦しい夢でもみてるのかなあ






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