第6話良いペット見つけました6
私が手を下ろしたところで、時間切れだった。
首に下げた時計を確認した先生が、終了を告げた。
内心安堵しつつ、一礼して後ろに下がろうとしたら声が掛かった。
「もう一度だ」
「え」
今まで一言も発しなかった白亜様の声だった。
「で、でも時間は…」
「許可する。もう一度試しなさい」
強い口調に、私は急に緊張してきた。泰然としていた白亜様は、微かに頬を紅潮させた表情を見せていた。
「はい」
再び手をかざした。冷や汗が伝う。背中に皆の視線が突き刺さる。
結界の中の仔と目が合った。興味深げに私を見ている。
私が諦めて、この結界を消し去ったら、この仔はどうなるのかな?
私は、わかっていた。
この結界は、この仔を封じるのではなく護るためにある。魔族の張った結界。さっきの吸収段階で、この結界が数百年に渡り破られた形跡は無いことは感じていた。
もし、今結界を消し去ったら?
この仔は、どうなるの?こんな可愛い仔でも、上級魔族なら……
「………私には、できません。申し訳ありません」
頭を下げて、ゆっくりと顔を上げたら白亜様の鋭い視線が私を射抜いていた。
ぎりっと唇を噛んだ白亜様が黙ったまま、勢い良く踵を返し階段を上がって去ってしまった。
言い様のないモヤモヤが私の中で湧いた。
「だから私はあんたが嫌いなのよ!!」
寄宿舎に戻ったところで、翡翠が私に突っ掛かってきた。
「翡翠……」
彼女は、怒っているだけじゃないようだ。
「翡翠、私から言っとくから」
橙が、私の腕を強く引っ張った。部屋に早足で連れて行かれる時、最終選抜試験に臨んだ皆が私を冷たく見ていた。
「深紅、あんたは皆の期待を裏切った」
「え?」
いつに無い、厳しい橙の表情と声。
「あんた……結界消せるのに実力を出さなかったでしょ?」
私の腕を掴んだまま、橙が低く問う。いや、確信している。
「だって、私は家に帰りたいから…」
「私だって帰りたいよ。でもね、何で今まで頑張ってきたのか考えたことある?私は本気で頑張ったよ、皆も。でも、あんたは力があるのに本気じゃなかった。私達は、それが許せないの」
鈍い私にも、ようやくわかった。
悔しそうに涙を滲ます橙。
私は自分の都合で、皆が努力してきた年月や志なんかを軽んじたのだ。
誠意無く、嘲るも同然。
「ごめんなさい」
モヤモヤが、胃を締め付ける罪悪感に変わった。それに、自己嫌悪。
どうして私、こんなにバカなんだろ。
その日、橙はそれ以上私に口を聞いてくれなかった。
夜、私は最終選抜試験に合格したことを伝えられた。
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