第一五〇話 新たなお金稼ぎを思いついた!
第二六六年 真珠月(六月)
長女アレスティナの示した才能による混乱がやっと収まった。
混乱も収まりいざ政務にまい進と意気込んだ俺のもとに、ラインベールが一つの話を持ち込んできた。
内容はこうだ。
戦闘民族である鬼人族が認めた最高級品質の武具を、周辺貴族に輸出する計画である。
武具に対し、異常なほどの熱意を燃やす鬼人族は、城下の鍛冶師たちに高品質な物を作るよう依頼を行うことが常としてある。
俺がこの家の財務全般を担う前は、出兵費用だけでなく、武具調達費がかさみ借金すらしていたという惨状だったのだ。
なので、俺がエルウィン家の財布のひもを握ってからは、野放図な武具調達はさせていない。
毎年、決まった額の予算を付けて、武具や馬などを調達をさせている。
もちろん、鬼人族からは予算増額を毎年求められるが、俺が断固として認めない。
この前の『象』購入費は、奥の手である特別予算枠を使ったけどな。アレは、子供たちへの投資である。
なので、枠外。
と、話が逸れたが、その武器調達費が定額化されたことで、城内の武具職人たちの売上が減ってしまっているとラインベールは伝えている。
武具職人の一部は鉄砲鍛冶に転職して、鉄砲量産に従事してるが、転職しなかった者の売上が落ちているため、鬼人族の受注を受けて高品質な武具を作っていた者たちの品を領外に売る隊商を組織して、エルウィン家の稼ぎにしましょうってのがラインベールの提案だった。
最初、ラインベールと同じことを俺も検討したが、当時は武具に使う鉄を輸入しており、コストから得られる利益が微々たるものであったため、見送った案だ。
でも、今はショタボーイのところの鉄鉱山から安価に鉄鉱石を輸入でき、製錬設備の整ったアルカナ領で高品質な鉄が大量生産できるようになり、材料費がかなり抑えられる状況になりつつある。
それにいくさで大きな武功を挙げ続けるエルウィン家の脳筋たちのおかげもあり、エルウィン家の紋章が入った武具を譲ってほしいという打診をいくつかの貴族家から受けていたりもしていた。
「イレーナ、ラインベールの提案どう思う?」
お腹が目立ち始めたイレーナは、筆頭内政官の職務をミレビスに譲り、俺の秘書官として業務を続けている。
「父からの提案ですね。鬼人族の方の目に適った武具は、市場に出せばけっこうな額になるかなと思います。それくらい高品質な物ばかりですしね。今は、エルウィン家からだけの受注でしか生産されませんが、販売用に生産するくらいの余力はありそうですよ。他家に販売できれば武具職人も懐が暖まりますし、エルウィン家も新たな収入を得られるかと思案いたします」
「うちが隊商販売専属部門作るって形にするのかい?」
「それは、さすがに費用がかさみますので、マルジェ商会を通した販売網でよろしいのではありませんか? 稼いで利益の一部をエルウィン家に納税するという形にすれば、人も増やさずに利益を出せるかと。エルウィン家は、常に人件費が過多の状況ですので」
たしかに販売はマルジェ商会を通した方が、人件費を抑えられそうだな。
脳筋たちに武具を売り歩いてこいなんてことはやらせられない。
そんなことさせたら、苦情殺到で俺の仕事がさらに増えるし、ここはイレーナの言う通り、マルジェ商会を使うか。
「分かった。マルジェ商会を使おう。リシェール、香油売りのついでに、エルウィン印の高性能武具も売り込んでくれるよう商会員たちに頼んでくれ」
最近、また仕事をさぼり始めたマリーダの監視をしていたリシェールが小さく頷く。
「なんじゃ、我が家の武具を売り渡すのか? それは、慎重にやらぬと家臣の者がキレ散らかすから、気を付けるのじゃぞ。鬼人族にとって、高性能な武具は命の次に大事な品じゃからな。妾が信頼する武具の目利きの達人を査定員に推薦しておくので、必ずその者を通すようにしておくのじゃ! さもなくば、皆が叛乱起こす可能性がある」
は!? 叛乱までしちゃうの? 武具を大事にしてるのは知ってるけども……さすがに……。
真剣な顔で話すマリーダを見ても、嘘だろうと思う気持ちが強かった。
「武具の販売をするとか聞こえたが、万が一、傑作の品が外に流れたら、ワシはその武具を買い取った貴族家を滅ぼして手に入れるからな! 特に扱いには気を付けるように! 分かっておるな、アルベルト!」
立ち聞きしていたブレストが、執務室の窓から顔を出して、恐ろしい言葉を吐き出してくる。
たかが武具一個で、周辺貴族に喧嘩を売られては適わないんですけど!
「ブレスト殿、その話は本気ですか?」
「ああ、鬼人族としてよい武具は独占したい気持ちが強い。アシュレイ城下の鍛冶師はエランシア帝国一の武具職人たちだと思っておるぞ。彼らの作り出した武具の中で良い物を得たいと思う気持ちは共通だ」
俺がエルウィン家としての武具調達費を絞ってからも、鬼人族たちは自費で武具を購入する者が多数いたことを思い出した。
中には俸給の大半を注ぎ込み生活が困窮する者もいる。
そういった家臣には、肉体労働の仕事を与え、日銭を与えているのであるが……。
あまりに多いので禁止令出そうかと思ったが、マリーダやブレストに止められて、なあなあになっていた。
これだから脳筋は……。
「承知しました。販売に回す武具の選定には、マリーダ様が推挙された目利きの達人の方を配置し、その方がエルウィン家の武具にふさわしくないと判断した物のみ、販売に回すことにします。それでよろしいか?」
「うむ、それならよかろう。マリーダの推挙した目利きの達人なら、皆も納得するはずだ」
「この者を推挙するのじゃ! この者以外が査定すれば、文句が出るからのぅ」
マリーダが差し出した紙片に書かれた名を確認する。
たしかこの人は、鬼人族が唯一帳簿を作ってる武具の帳簿管理を任されてる人だったはず。
なるほど、彼の判断ならみんな納得ってことか。
「では、他家販売用の武具の発注も含め、武具調達費の増額を行い、城下の武具職人の納めた武具から、この者の査定でエルウィン家所蔵と、販売用と分けるという形にいたします。ただ、エルウィン家所蔵の予算枠もありますので、年二回の品評会という形で職人たちの制作物を一斉に査定し、上位の物のみ所蔵という形にさせてもらいますがよろしいか?」
査定のうやむやの中で、武具調達費の予算枠を増やされては困るので、限度をきめることを提案しておいた。
「上位品評から漏れた物を鬼人族が個人が購入することも可能か?」
「個人購入なら可能としておきます。好みもあるでしょうしね」
鬼人族への俸給が、武具の個人購入費という名目で、エルウィン家に還元されてくるのは歓迎する。
膨大な人件費を払っているため、少しでも還元されるのは嬉しいところだ。
俺もお金貰えて満足、鬼人族も武具を得て満足なら問題なし。
「叔父上、それなら問題なかろう。所蔵された物を褒賞として与えてもよいしのぅ。あの者の査定なら、一定品質以上の良い物は絶対に外には出ぬからな」
「うむ、そうであるな。承知した。家臣たちには、今後個人で発注せずに品評会に出された物から選べと伝えておこう。そうすれば、職人たちも品評会を最重要視するだろう?」
ブレストが珍しくまともなことを言っている。
個人発注をされると、それを優先する武具職人が出て、品数が揃わない可能性があったが、ブレストが家臣にそういった通達を出してくれると、品評会に出される作品の質がより高い物になると思われた。
「そうして頂けるとありがたい」
「すぐに通達する。では、さらばだ!」
ブレストは廊下を駆け去っていった。
武具やいくさに関しては、動きが早い脳筋たちだけのことはある。
数日後、家臣たちに武具の個人発注禁止令がマリーダによって正式に布告され、年二回の品評会での購入が義務付けられた。
同時に城下の武具職人たちにも俺の名で布告がされ、現在の武具調達費に加え、販売用に年間帝国金貨1万枚分の武具発注をすると申し伝え、品評会に制作物を出せば評価に応じた金額を支払うことにした。
個人発注を受けていた武具職人たちも、品評会の最優秀の品に払われる金額にやる気を見せ、傑作を生み出すべく武具の生産を始める。
品評会で上位評価を得られず、個人購入されなかった販売用に回る武具の品質でも、他家の武具職人のものとは比べ物にならないくらい高品質な物である。
それらの品にエルウィン家の鬼の紋章から取った意匠を柄頭に小さく刻印し、偽物が出回らないよう対策したうえで売り出す予定だ。
事前にラルブデリンの温浴施設に来る上位貴族の人に、武具販売の話を持ち掛けさせてみたら、わりと好評だとクラリスから報告があったため、武具販売はわりと受注がもらえる可能性が高い。
新たな財源として、武具の販売が収益をあげてくれる日も近いはずだ。
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